この回では、光とレンズの基本的な性質について学習する。
その上で、顕微鏡にとって重要な性能を表す分解能や開口数といった要素について理解する。
光はさわることのできる物体ではないが、その性質は眼で見ることのできるさまざまな現象で説明することができる。
「直線」としての性質 光には、一様な質のもの、たとえば、均質な板ガラスや空気、水 などの中を直進する性質がある。 直線としての光を「光線」と呼 ぶ。 屈折、反射、分散、屈折率、全反射、収差などの現象は、光の 「直線」としての性質から説明できる。 | 図1 「直線」としての性質 |
「波」としての性質 光は、横波として表現することができる。光の一周期の長さを波長、波の高さを振幅と呼ぶ。波長は色に、振幅は強度(明るさ)に影響する。波としての光 を「光波」と呼ぶ。 回折、散乱、干渉などの現象は、光を「波」としてとらえると説明できる。 | 図2 「波」としての性質 |
「粒子」としての性質 光は、粒子としての性質を持っている。粒子としての光を「光量子」あるいは「光子」と呼び、光のエネルギーを表わすのに都合がよい。 蛍光観察での蛍光色素の発光の原理などは光を粒子としてとらえて説明される。 | 図3 「粒子」としての性質(りん光) |
コラム:波の性質
たとえば壁越しに誰かに声をかけたとき、その声は壁の向こうの見えない相手にも聞こえる。これは、音が
波としての性質を持っているためである。つまり、音の波が遮蔽物(壁やドア)の影に回りこんで、その向
こうの相手にまで届くことを示している。
光も音と同じように波の性質を持っているが、光は横波、音は縦波であるため、光と音の伝わり方は異な
る。
水中にあるものが歪んで見える、蜃気楼や虹が見える、鏡に像が写るなどは、光の屈折や反射によって起こる現
象である。これらの現象は、光の「直線」としての性質から説明できる。
図4 光の屈折と反射 | 図5 プリズムによる光の屈折 |
顕微鏡では、標本を拡大するために、レンズによる光の屈折を利用している。
レンズによって光線が屈折し像が形成される様子や、像ができる場所・結像倍率などは、「光線」の幾何学的な作図によって求めることができる。
レベルアップ:屈折率とは?
屈折率とは、光が真空中を進む速度とガラスなどの媒質中を進む速度の比率のことである。
ダイヤモンドが他の鉱石に比べてひときわキラキラと輝いて見えるのは、屈折率が2と大きいため、光がダイヤモンドの中をカット面でより多く反射して行き来するからである。
シャボン玉の表面の色付きや、太陽の周りにできる光の輪などは、光の干渉や回折によって起こる現象である。
これらの現象は、光の「波」としての性質から説明できる。
光の干渉
「干渉」は、2つの波が重なることにより、合成波が大きくなったり、小さくなったりする現象である。光においては、2つの光が重なるとき、光の山と山が重なって強め合い、明るくなる。光の山と谷が重なると波を打ち消し合い暗くなる。また、波長の違いによって色付きが生じる。
顕微鏡では位相差、微分干渉、偏光などの観察(顕微鏡の種類と用途 1-3.観察方法による分類
参照)で、無染色の標本の像に明暗や色のコントラストを付けるために、この性質を利用している。
図6 光の干渉によって起こるシャボン玉の色付 | 図7 撮影レンズの絞り羽根による回折像 |
光の回折
「回折」は、波が遮蔽物のかげに回り込む現象である。光を波と考えれば、光の進行方向に遮蔽物があると、光の一部は直進せず、遮蔽物に回り込んで進むことを示している。
回折を理解するには、遮蔽物を防波堤、光波を防波堤に打ち寄せる波に置換えるとわかりやすい。波は、防波堤全体に均一に打ち寄せるが、防波堤の端では、防波堤の陰に波が回り込んでいる現象が見られるだろう。
顕微鏡では、「照明光が標本(遮蔽物)によって回折する」という現象になる。スリットが狭いほど回折は大きく、広ければ小さく回折する。より広い範囲の回折光が生じれば、その光からより多くの情報を得る可能性があるといえる。
図8 標本による回折
レベルアップ:「波」とは?
波とは、となりからとなりへ揺れが伝わる現象である。あくまで振動が伝わるのであり、物体そのものが実際にこちらへ進んでくるわけではない。
その概念には、「速度」、「位相」、「波長」、「強度」などが含まれる。
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回折格子(ガラス板に多数の細いすきまを平行に等間隔に刻んだもの)にレーザーポインターで光を当てると、格子を通った光はいくつにも広がっ
て見える。
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