いつものように顕微鏡を覗いて作業を始めようとしたとき、いつもと見え方が違う。
そんな経験はありませんか?
顕微鏡が故障したとなれば、作業がはかどらないどころか、修理を依頼するなど時間もコストもかかってしまいます。しかし実際には、「顕微鏡の故障」という問い合わせのうち、本当に修理が必要なものは半分程度。残り半分は、簡単な調整とメンテナンスの方法を身につけておけば、解決できてしまうものなのです。
そこで、シリーズ「自分でできる!顕微鏡トラブル対処とメンテナンス」では、そんな故障かな?と思った際の簡単な確認方法と自分でできるトラブル対処法、メンテナンス方法をご紹介します。トラブルが半分に減れば、無駄な修理を依頼することもありません。また、きちんとメンテナンスができていれば、顕微鏡自体の耐用年数も長くなり、結果としてコストの削減につながります。
顕微鏡の特性を知っておくと、これらの状況に自分で対応できる範囲はぐっと広がります。これを機会に簡単な調整方法を習得してしまいましょう。
いつもは視野が白いのに、黄色っぽく見える。光が眩しかったり、暗かったり。これら照明に関する問題で、観察がうまくできないことがあります。これは「フィルタ」が正しく使われていない可能性があります。 視 野が黄色っぽく見える場合は、適切な「色温度」で観察できていないことが原因です。色温度というのは、光の色を絶対温度で示す単位です。太陽の光と白熱電 球の光を見比べてみると、白熱電球の方が黄色っぽいと感じるでしょう。このような違いを数値として表わすのが色温度で、一般に「ケルビン(K)」という単 位を使います。 | 各種フィルタ |
色温度
色温度は、高いほど青みがかった光となり、逆に低いほど赤みがかった光となります。顕微鏡の光源は色温度が3800Kのハロゲンランプを使用しています。一方、観察に適した色温度は5500K、太陽の光に近い昼光色です。そのため、光源から出る光をLBDフィルタ(色温度変換フィルタ)により適切な色温度(5500K)に変換しています。
また、明るすぎる場合は電圧を下げて暗くしようとしがちですが、電圧を下げると色温度が変わり視野が黄色っぽくなります。NDフィルタ(減光フィルタ)を活用して明るさを調節してください。
照明についておかしいと感じたら、所定の場所で適切にフィルタが使われているかを確認してみましょう。
フィルタの確認箇所(BXシリーズ)
いつもと同じように顕微鏡を覗いているのに、明るさに「ムラ」がある、欠けて見える「けられ」がある。このような現象が発生したときは顕微鏡の「光軸」の位置がずれている可能性があります(透過照明観察の場合のみ)。 | 視野内のけられ |
顕微鏡は、接眼レンズや対物レンズなど、何枚ものレンズを組み合わせて拡大する道具です。これらのレンズの中心を光が通らないと、光源から対物レン
ズ、そして接眼レンズ、観察者の目の網膜へと続く光の道筋「光軸」にズレが生じてしまい、最適な観察像が得られなくなるのです。
光軸調整にあたり用意するものは、確認のために使用するサンプル。これは、いつも観察しているサンプルで構いませんが、日常的に観察しているサンプルが生き た細胞や無染色の標本の場合は、調整用に染色した組織標本などをあらかじめ用意しておくと便利です。工業系のサンプルでは、平滑な板やミラーなどが良いで しょう。 | 開口絞り、視野絞り、コンデンサ |
まず、視野絞りと開口絞りを全開にし、対物レンズは10×もしくは低倍率の対物レンズにしておきます。次に、コンデンサ上下ハンドルを用いてコンデンサを一番上まで上げます。そして、サンプルをステージにセットしてピントを合わせます。
ピントを合わせた後、全開にしておいた視野絞りを絞ります。このとき、視野内に小さな円が見えますが、その周辺部はぼやけている状態です(1)。そこから、今度はコンデンサ上下ハンドルによりコンデンサを下に動かし、ピントを合わせていきます。すると、ピントが合うにつれて周辺部がはっきりとし、多角形になります(2)。続いて、コンデンサに付いた2つの心出しネジを回し、多角形が視野の中心に来るようにします(3)。多角形が中心に来たら視野絞りを開き、視野に外接する大きさまで開きます(4)。この際、視野絞りを開きすぎると、観察像のコントラストが悪くなるので注意が必要です。
コンデンサの光軸調整
なんとなく見えがいまいち・・・。そんな場合は開口絞りが適切に使われていない可能性があります。下の2枚の顕微鏡像、どちらの方が「良い」ものだと思いますか?
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一見すると、はっきり写った右側の方が良いものだと思うかもしれません。しかし顕微鏡の仕組みから考えると、実は左の方がより適切に標本の状態を反映しているのです。右側の写真では、開口絞りを絞りすぎてしまっており、本来見えないはずのものまで見えてしまっている状態です。
無染色標本の写真(珪藻)も見てみましょう。aは開口絞りを全開にした状態です。分解能は良い反面、コントラストが悪くなっています。一方、cは開口絞りを最小にした状態です。コントラストは良い反面、分解能が悪くなっていることが見て取れます。bが分解能とコントラストのバランスが最も良い画像ですが、これは開口絞りが適切に使われているためです。
このように、開口絞りの絞り度合いにより、見え方は大きく異なります。開口絞りは、絞りすぎると「コントラスト」は良いが「分解能」が悪くなり、開 放しすぎると「分解能」は良いが「コントラスト」が悪くなります。右図はその関係を示したイメージ図ですが、開口絞りは開閉の度合いにより分解能・コント ラストが変化することに留意してください。 開口絞りの役割と重要性をご理解いただけたところで、最適な調整法をご紹介します。まず、鏡筒から接眼レンズを外してください。次に、接眼レンズを外した中に見える対物瞳を見ながら開口絞りを絞ります。最後に、開口絞りが対物瞳直径のおおよそ70~80%程度となるようにします。これが一般的に最適とされる開口絞りの設定です。 | 開口絞りによる分解能とコントラストの関係 |
開口絞りの設定
金属顕微鏡においては、低倍対物レンズでは前述の生物顕微鏡同様ですが、高倍対物レンズでは若干異なります。これは、金属顕微鏡の高倍対物レンズの瞳径が小さく、開口絞りをこの瞳径よりもさらに小さく絞って観察しなければ、高いコントラスト効果が得られないためです。つまり金属顕微鏡における高倍観察像 は、開口絞りによるコントラスト変化の影響をより大きく受けると言えます。このため構造的にも、金属顕微鏡の開口絞りはより小さく絞れる4枚羽の構造(生物顕微鏡は8枚羽)になっています。
長時間にわたって顕微鏡を使っていると、ピントがずれて観察物が見えにくくなったことはありませんか?これは、眼の筋肉が疲労してピントを合わせづらくなるために起こる現象です。
顕微鏡は、複数のレンズを組み合わせてサンプルを拡大する道具ですが、顕微鏡内のレンズに加えて、眼の水晶体もレンズとして働いているのです。水晶体は、無意識にピント調節ができる、非常に優れたレンズと言えます。この水晶体は無意識に調節できるという点では非常にありがたいのですが、微妙なズレも修正して
しまうという欠点もあります。
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顕微鏡の正しいピントの合わせ方を知っておけば、ストレス無く快適に顕微鏡を使えるようになります。
まず、接眼レンズの間隔を自分の眼の幅に合わせます。この操作を「眼幅調整」と呼びます。使用している顕微鏡を使って、眼幅調整が適切にできているか確認してみましょう。左目を閉じ、右目だけで顕微鏡を覗きます。次に右目を閉じて左目で顕微鏡を覗き、最後に両眼で顕微鏡を覗いてみましょう。
このとき、見えた視野は同じでしたか?左目と右目、それぞれの目で見たときに視野がずれるようであれば、適切な眼幅に調整できていない可能性があります。
眼幅調整のためには、まず正しい眼の位置、「アイポイント」から顕微鏡を覗かなければなりません。アイポイントを知るために、顕微鏡を低倍率にして照明を点灯させ、接眼レンズに白い紙をあててみてください。接眼レンズから出た光が紙に写って写真のようになります。
アイポイント位置
紙を接眼レンズから遠ざけるように動かしたとき、左右の接眼レンズから出た光がもっとも小さく見えるところがあります。ここがアイポイントです。アイポイ ントから遠くを見るように接眼レンズを覗きます。そのとき見える視野がひとつの円になるように接眼レンズの幅を調節してください。 | 眼幅調整 |
続いて、人による視力の違いや、左右の視力の違いによるズレを解消するため、「視度調整」を行います。当社の顕微鏡では、視度調節環が付いた左の接眼レンズを使って調整を行うのが一般的です。使うものは、左側接眼レンズにある「視度調整環」と適当なサンプルです。 まず、左目を閉じて右目だけでサンプルを見て、粗微動ハンドルを回してピントを合わせます。その状態で次に左目だけで顕微鏡を覗き、今度は粗微動ハンドルではなく、視度調節環を回すことでピントを合わせます。 この一連の調整が完了したら、観察者にとって負担の少ない最適な観察環境が整ったことになります。 | 視度調整 |
高倍率の対物レンズはサンプルからレンズまでの距離が短く、接触する危険性があります。これを防ぐため、ステージが規定の位置以上に上がらないように設定できるのが「粗動上限ストッパー」です。しかし、この粗動上限ストッパーが適切ではない位置でロック状態になっていると、ピントが合わせられません。このときには、粗動上限ストッパーを再調整しましょう。
まず、粗動上限ストッパーをOFFの状態にして、低倍率でピントを合わせます。ピントが合ったところでストッパーを前に倒し、ロック状態にします。 そして、対物レンズを高倍率に変え、微動ハンドルでピントを合わせます。その後、粗動ハンドルを回しステージを下げます。さらにサンプルを交換して低倍率 の対物レンズに切り替え、再度ステージを上げます。 このとき、上限ストッパーでハンドルが止まるところまで回すと、先ほどロックをかけた場所でステージが止まります。これが、低倍対物レンズでほぼピントが合っている状態となります。 | 粗動上限ストッパー |
観察像がどの対物レンズで見てもゆれる、またはわずかな振動でもゆれる場合には、「レボルバの固定」「ステージの固定」「ステージホルダの固定」を確認してください。
レボルバの固定 | ステージの固定 | ステージホルダの固定 |
特定の対物レンズでのみ観察像がゆれて見える場合は、該当の「対物レンズのねじ込み」が確実にされていない可能性があります。対物レンズはしっかり固定されるまでねじ込んでください。
視野内の左右方向に片ぼけがある場合は、「対物レボルバの回転」がクリック位置で止まっていない可能性があります。正しくクリック位置で止まっているかを確認してください。
また、視野内の上下方向に片ぼけがある場合は「ステージの固定」が正しくなされていない可能性があります。横から見てステージが水平に固定されているかを確認してください。水平になっていなかった場合は、ステージ固定ネジを緩め、水平になったら再度締めてください。
視野内に、ゴミや汚れが見える場合は、清掃が必要となります。自分で清掃できる場合もありますので、以下の方法で確認してみてください。 最初に、ゴミや汚れが付着している位置を確認しましょう。このとき、開口絞りを最小まで絞るとレンズ面のゴミや汚れを目立たせることができます。次に、接眼 レンズを覗きながら、図のチェック箇所を動かして見ましょう。ゴミや汚れが視野の中で動いたら、ゴミや汚れはその動かした箇所に付着しています。 清掃については注意が必要ですので、『顕微鏡メンテナンス』を参照してください。 | チェック箇所 |
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