細胞培養プロセスの拡大や発展によって標準化、正確な文書化、作業スピード向上および作業負荷軽減を可能にする技術への需要が高まっています。ここでは、効率的で標準化された細胞培養ワークフローをサポートし、細胞ベースのアプリケーションにおける実験の成功率を加速させるためのソリューションについてご紹介します。
効率的な細胞培養プロセスは、幹細胞や癌の研究から再生医療に至るまで、ライフサイエンスおよび医薬品産業全体にわたり多くの応用領域で基礎を築いています。質と再現性を確保するためには、ワークフロー(図1)の段階ごとに培養の進行状況を把握するにあたり、生体外(ex-vivo)での生育、増殖、分化の段階に応じて細胞を明確に観察、文書化する能力が重要です。多くの研究室では迅速で効率の良い標準化と正確な文書化のための方法が導入されています。
図1:細胞培養ワークフローの概要
細胞培養プロセスにおいて、顕微鏡下での形態観察に加えてインキュベーター内での細胞数や細胞密度を定量化することにより、後工程の科学実験の再現性向上に貢献します。
上記はインキュベーションモニタリングシステムCM20や細胞培養の確認用途に特化された細胞培養顕微鏡をもちいることで実現可能です。同時に、良好な結果が得られる細胞培養プロセスがサポートされるので、信頼性、再現性、そして最終的にはダウンストリーム実験の信頼性も改善されます。
細胞培養における成功には、正確性の高い観察とワークフローの効率性が必要です。しかし、従来の光学顕微鏡システムでは操作性と人間工学の点から見て制約があるため、細胞培養観察にも悪影響を及ぼしかねない、時間と手間のかかるワークフローでした。長年の改良のなかで細胞培養の観察と分析に特化したシステムには、これらの課題を解決するための、多彩な機能が組み込まれています(図2)。これらの機能には、作業のスピードアップと全体的な効率を改善する、快適で便利な操作性が含まれています。たとえば、クリーンベンチ内での作業に適した小型で軽量なUV耐性システムは、無菌環境下での観察を可能にし、コンタミネーションのリスクを減らすことができます。フォーカスおよびサンプリングを自然に行える位置に手を置く人間工学的な操作によって細胞の処理速度が向上し、作業者だけでなく培養細胞自体にとっても有益です。細胞が最適培養条件外に置かれる時間が長くなると、コンタミネーションのリスクが増加し、生理機能を変化させ、サンプル間のバラらつきを生じさせる原因にもなります。操作上の点に加えて、用いられる光学性能も、全体的なプロセスの効率に影響を及ぼします。
図2:細胞培養ワークフローを強化するシステム
CKX53細胞培養顕微鏡およびCM20インキュベーションモニタリングシステムは細胞培養の標準化、品質管理を効率化します。
独自の光学レンズを用い、大きな視野数で視野を広げる特徴を持つ細胞培養顕微鏡は、スピーディーで効率的なスクリーニングを促進します。視野数22は視野数20より21%大きな像を作るので、特に2X対物レンズを使用したとき、より実物に近い、明確なサンプルの全体像が得られます。視野数が増えたことにより、複数のプレートの観察が容易になり、複数のプレートを単一の画像で観察することも可能になります。 観察技術それ自体に関して見ると、標準的な光学顕微鏡は明視野でのイメージングに依存しています。しかし、明視野観察には培養細胞観察における重大な制約があります。位相物体として知られる培養中の細胞のような、生きた、非染色の細胞は光を吸収しないため、一般的な明視野顕微鏡では多くの構造を見ることができません。それでも、光は透明なサンプルを通過するとき位相変化を受け、特化した照明方法(位相差法[1]およびホフマン変調コントラスト法[2]など)により、位相変化を光強度パターンに変換して像コントラストを拡張することが可能です。このような理由から、位相差は細胞生物学者の間で人気のある方法ですが、特に倍率を変える必要があるときには、異なるサンプルを準備して視野の中心に配置しなければならず、作業に時間がかかります。位相物体のスピーディーで高コントラストな観察を可能にするiPC(integrated Phase Contrast)技術なら、4Xから40Xまでの対物レンズを切り替える際にリングスリットを個々に変更する必要がなくなります。前述のとおり、より効率的なワークフローを可能にすることは、細胞の健全性維持にも貢献します。
細胞培養顕微鏡の有用性の幅が広がり、蛍光イメージング機能により作業者はルーチン観察と実用的な研究を同一のシステムで行えるようなったことで、スペースとコストが節約できるようになりました。単一のシステムを、シーディング・増殖・継代のモニタリングから、広範囲にわたる色素を使用する細胞分析の高コントラスト蛍光イメージングまで、細胞培養ワークフローのあらゆる段階で利用することが可能です。
細胞培養を成功させるには、細胞増殖とコンフルエンシーの適切かつ長期的なモニタリングが重要です。細胞の培養段階は、誘導期、対数期、プラトーフェーズの3つの異なるフェーズから成り立っています。
図3:細胞の培養段階
細胞増殖は誘導期に始まり、成育因子濃度が増加するにつれて急激に増殖する対数期に移行します。栄養分が消費されたり、細胞密度が高まると接触阻害が生じて細胞増殖は停滞します。細胞増殖のプロセスをたどる適切なタイミングをつかむことが非常に重要であり、飽和状態にならずに十分な収率での細胞増殖を確保できます。
また以下の理由から、継代、ダウンストリーム実験、保存のための細胞サンプルを準備できるかどうかが非常に重要です。
従来の顕微鏡観察は、細胞の培養が一貫して計測されていることを確認するために有用ですが、培養を常にモニタリングすることも同様に重要です。細胞が正しい日にちまたは時刻にチェックされない場合、継代やほかの実験作業の最適なタイミングを逃してしまう可能性があります。適していない、またはバラバラの時間に継代を行うと、実験の後工程の結果に悪影響を及ぼすことが懸念されます。CM20と専用ソフトウェアを用いて継続的にモニタリングすることにより、作業者は細胞をどのタイミングで継代すべきかを適切に把握することができます
図4:細胞増殖のモニタリングで標準化されたプロセスの確保
CM20は、自動計測により継続的に取得した画像を、機械学習をベースとした画像解析技術で計測・グラフ化します。培養状況を、定量性をもってコンスタントに可視化するものさしの役割を果たすことで、細胞チェックのバラつき要因を排除し、実験の再現性や一貫性に貢献します。さらに、これらのデータと分析パラメーターは、簡単に保存、再利用、および転送することができます。定量データの収集を通じてワークフローを標準化することにより、プロセスの早い段階で異常の発生した細胞を検出でき、作業時間やコストの削減につながります。
従来、細胞のカウントは血球計数器を使って手作業で行われていました。しかし、この方法は時間がかかるうえ、ヒューマンエラーによるバラつきが生じる場合があります。これに代わる手法が、インキュベーター内にサンプルを静置したまま自動で定量データを取得可能にするCM20インキュベーションモニタリングシステムです。 このシステムによって、作業者が膨大な計測作業をすることなく、細胞へのダメージも極力押さえたうえで連続的な定量データを取得することが可能になります。
図5:CM20をインキュベーター内に置いたまま細胞データ取得が可能
CM20を用いることで、培養細胞のダメージリスクを軽減することができます。インキュベーターの中に置いたままモニタリングするため、細胞培養状況を確認するたびにインキュベーターからサンプルを取り出す必要はありません。これにより、細胞は常時適した状態を維持でき、温度変化やコンタミネーション、振動による細胞への悪影響を押さえることが可能になります。
また、CM20は、細胞のダメージリスクを軽減するために特別に設計された照明法を搭載しています。従来の顕微鏡で使用されている透過照明法による過度な光照射は、細胞にダメージを与える可能性があります。これに対処するために、落射偏射照明と呼ばれる独自の照明方法を採用しています。落射偏射照明は、630 nm LEDを使用し、継続的な観察でも光毒性を低減します。
CM20専用のソフトウェアにより、正確かつ定量的な細胞増殖データをシームレスに生成することが可能となるため、たとえば培養条件を最適化するために必要以上に分離と液中カウントを繰り返すといったことを回避できます。取得したデータはタブレットやPCへ送信できるため、作業者は培養室にいなくても、いつでも培養状況を確認することが可能です。
図6:CM20をインキュベーター内に置いたまま細胞データが確認可能
ライフサイエンス研究の基礎となる細胞培養には、高い精度での作業や管理が必要であり、そのためには正確な細胞培養プロセスが必要です。細胞培養はすでに成熟した分野ですが、一貫性があり、効率的で、定量化可能な結果を提供するために、日々プロセスの改善が行われています。
CKX53培養顕微鏡は、人間工学に基づいたより優れた操作性と光学系を搭載し、蛍光観察などさまざまなイメージングを行うための柔軟性を提供します。
CM20インキュベーションモニタリングシステムは、細胞へのダメージリスクを抑制し、日々の手作業を大幅に削減しながら、継続的な定量データの取得を可能にします。
これらのシステムは、相互に連携することで最大限の効果を発揮します。CM20は日常的な細胞培養モニタリングという重要な作業を担いますが、依然として正確な細胞カウント、継代、および蛍光観察による評価は、熟練した作業者に依るところが大きいといえます。
デジタルによる新しいワークフローを組み合わせることにより、作業者は効率的で、管理された、また、高度に標準化された細胞培養システムを構築することができます。これにより作業者は日々の実験や再生医療にかかわる研究を効率化することが可能になります。
Joanna Hawryluk, Product manager
Avi Smith, Product manager
Olympus Corporation of the Americas
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