顕微鏡の命ともいえる、対物レンズ。サンプルに合わせて、倍率以外にも考えるべきことがたくさんあるのをご存じでしょうか?イメージングの目的と対物レンズの特性が合っているかどうかを知ることで、より説得力のある蛍光像を撮ることができるのです。
今回はお手元にある対物レンズに表示されている特性の見方と、そのひとつ「開口数」についてご紹介します。
ところで、対物レンズをよく眺めたことはあるでしょうか。実は、どのような特性を持った対物レンズなのかは、一目見ただけで分かるのです。たとえば、下の写真をご覧ください。
写真の対物レンズには、上段に大きめの文字でUPlanSApoと対物レンズの種類が表記されています。またその下にある60×/1.35
Oilは、倍率と開口数と液浸タイプを表しています。さらにその下には∞/0.17/FN26.5と機械的鏡筒長、カバーガラス厚、視野数が表記されてい
ます。そして下部の2本のラインは、上が対物レンズの倍率、下が液浸の種類を表しています。これらを図にすると以下のようになります。
(これらの表示は国際規格ISOやJISで規定されています。) |
このように対物レンズにはその性能や種類に関する表示があります。それぞれの項目の詳しい意味については、「顕微鏡用語解説」にありますのでご覧下さい。
これらの中でも、蛍光観察に使う対物レンズで最もこだわるべき点は、倍率と浸液の間に記入されている「開口数」と言えます。開口数(NA)はレンズによって0.1~1.6程度の値を持ち、同じ倍率であれば数値が大きいほど分解能が高く、また明るく見えるため、微細な対象や微弱な蛍光シグナルを観察するためには開口数の大きなレンズを用いるのが適しているのです。それでは、開口数とはどのようなものなのでしょうか。
開口数は、サンプルのある一点から対物レンズに入射する光の、光軸に対する最大角度をθ、サンプルとレンズの間にある媒質(空気や水、オイル)の屈折率をnとして、以下の式で計算される値です。 NA=n sinθ 開口数は、同じ倍率であれば大きければ大きいほど、得られる像が明るくなります。例えば、以下の蛍光像(図1~図3)を見てください。 こ れらは微小管を蛍光染色した培養細胞を、左から開口数0.9の対物レンズ、開口数1.3の油浸対物レンズ、そして同じ油浸対物レンズで励起光を50%抑え て使い、撮影したものです。開口数が大きくなることによって蛍光像が明るくなり、励起光を抑えても微小管の構造がはっきりと見えるのが分かるでしょうか。
励起光を培養細胞のサンプル(試料)に照射する効率、試料からの蛍光を取り込む効率は、それぞれ開口数の2乗に比例します。[蛍光イメージングのABC イントロダクション]
図1で示したように、蛍光イメージングでは照明光と観察光が対物レンズを経由するので、蛍光像の明るさは、
開口数の大きいレンズを使うことで、励起光を抑えても得られる蛍光像の明るさは保てるため、試料へのダメージや褪色の防止にも繋がるのです。このように蛍光観察に用いる対物レンズの開口数は、基本的には「大きい方がいい」と言えます。 | 倒立顕微鏡の場合 |
さらに開口数は、同じ倍率であれば大きければ大きいほど分解能が高くなります(図1、図2を参照)。その関係は以下の式で表すことができます。
ΔR=0.61λ/NA
ΔR:分解能、λ:光の波長
図1、図2は、開口数0.9と1.3の対物レンズで同じ試料を撮像したものです。開口数1.3のレンズの方が細部までよく見えていますね。
媒質が空気(屈折率n=1)の場合、前述の式NA=n sinθからも分かる通り、開口数の理論的な上限は1となり、例えばGFPの蛍光波長(0.51μm)での分解能は0.3μm程度になります。微小管やアクチン繊維のネットワーク、細い神経軸索での物質輸送などの細胞内部の微細構造や、タンパク質一分子の挙動解析などを行おうとした場合には、ちょっと心許ない数字ですね。そこで、さらに高い解像の蛍光像を得たい場合には、空気よりも屈折率の高いオイル(n=1.52)や水(n=1.33)を試料と対物レンズの間に入れて観察する「液浸対物レンズ」を利用して開口数を高めるのです。
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