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CM20による定量データを活用した細胞培養プロセス改善

はじめに

生命科学・医学研究において細胞は必要不可欠な存在であり、細胞を育てることは研究の起点となります。しかし、細胞培養は一種の職人的領域であり、作業者の技術、経験が必要とされてきました。具体的には、作業者はインキュベーターから細胞を取り出し顕微鏡で細胞の状態を確認しますが、チェック基準はヒトの目による判断であるため、その熟練度の差によって作業者間でバラつきが生じてしまいます。特に多くの細胞株を有するラボでは、作業者それぞれが複数の細胞株を培養しており、実験用に細胞品質を適切に保つことは困難でした。また、細胞数などの定量データ取得には、細胞剥離に伴う破壊試験が必要となり、作業の手間やデータが断片的であることが課題となっていました。
オリンパスのインキュベーションモニタリングシステムCM20は、これまで作業者の勘や経験に頼って行われていた細胞チェックにおいて、一定の基準=「ものさし」の役割を果たし、これらの課題の解決に貢献します。
 

CM20を用いたより正確で効率的な細胞チェック

培養容器をスキャンして定量データを自動計測するCM20は、日々の細胞チェックに替わる「ものさし」となります。剥離・染色などを行わない非破壊での細胞チェックを連続的に行うため、作業者ごとのバラつきを減らし、作業の手間も軽減できます(図1)。
 

図1 細胞チェックの概念図

図1 細胞チェックの概念図
 

1)絶えず画像を取得

容器を装置の上に置くだけで、設定された観察時間・観察位置に従って細胞画像が取得できます(図2)。これにより作業者は細胞観察のためにスケジュールを組むことや、観察位置をノートにメモする必要はなく、作業のバラつきも生じません。また、同じ場所の経時変化を観察することで、細胞の挙動や成長の過程を確認できます(図3)。
 

従来 CM20
観察時間 作業者のスケジュールに依存 3~24H間隔
観察位置 作業者の勘・経験 定点:25点(T75Flaskの場合)

図2 細胞チェックの比較
 

図3 同視野の経時変化の画像

図3 同視野の経時変化の画像

図3 同視野の経時変化の画像

図3 同視野の経時変化の画像
 

2)定量データ化の手間を軽減

画像処理、機械学習技術を利用し、簡単なパラメーター設定で目視イメージに近い解析(細胞数、細胞密度)を実施し、定量データ化できます。例えば熟練の作業者が設定したパラメーターをラボ内で共有すれば、取得画像に対して同じ解析を行うため、バラつき要因を排除し実験の再現性や一貫性も向上します。
 

●細胞数解析

輝度ピークを認識するアルゴリズムで細胞核を捉え、細胞数を算出します。パラメーターとして、細胞サイズとコントラストを変更し画像処理をかけることで調整が可能です(図4)。

図4 細胞数解析の画像

図4 細胞数解析の画像

図4 細胞数解析の画像
 

●細胞密度解析

細胞部と背景部の特徴量(輝度変化の大小)を利用したアルゴリズムで、細胞密度を算出します。パラメーターとして細胞部と背景をペン状のツールで色塗りし、機械学習させることで調整が可能です(図5)。
 

図5 細胞密度解析の画像

図5 細胞密度解析の画像
 

お客様の活用事例 異なるiPS細胞株の増殖比較

CM20を用いて培養データを取得し、細胞株毎の比較を実施した事例を紹介します。
※ご協力:株式会社iPSポータル
 

細胞:iPS細胞(1231A3株、201B7株)
培養期間:1週間
容器:6ウェルプレート
作業者:1名

図6 CM20 2台をインキュベーターに入れ、1容器に1細胞株を入れてCM20にセット

図6 CM20 2台をインキュベーターに入れ、1容器に1細胞株を入れてCM20にセット
 

細胞株の培養を担当する作業者の経験から、細胞株1231A3株と201B7株を比較すると、1231A3 株の方が増殖しやすいことは分かっていました。しかしながら、増殖能にどの程度の差があるのかは、従来の手法ではデータ取得が煩雑なため、把握されていませんでした。そこで、CM20で各細胞株の画像と細胞密度の経時変化のデータ取得を行いました。

図7:画像の定性情報から、同一の培養日において細胞株間で細胞密度が異なることが分かる。
図8:細胞密度の定量情報から、特に培養5日目(図8 day5)以降、1231A3 株の増殖能が対201B7株で3~6%の変動幅で高いことが明確となった。
 

図7-1 培養7日目の1231A3

図7-1 培養7日目の1231A3

図7-2 培養7日目の201B7

図7-2 培養7日目の201B7

図8-1 各細胞株における細胞密度の経時変化

図8-1 各細胞株における細胞密度の経時変化

図8-2 2細胞株間の密度差

図8-2 2細胞株間の密度差

以上のように、CM20を用いた数値化によって、作業者が勘・経験で認識していた株間の増殖差が明確になりました。細胞株の培養作業者が変更となっても、CM20という「ものさし」で細胞チェックを行っているため、細胞密度に対する判断のバラつきは小さく、異常値が出力された場合も作業を振り返り、原因を追及することができます。
また、細胞株ごとにこれらのデータを取得しておくことで、細胞の特徴を把握することができ、適切なタイミングでの実験移行や実験結果と紐づけた考察を行うことができます。
 

まとめ

CM20を用いることで、簡単かつ直観的に日々の細胞培養データ(細胞画像、細胞数、細胞密度)を取得できます。そのデータを活用することで、細胞チェックのバラつき要因を排除し、細胞の品質や細胞実験の再現性を向上させることが可能です。
 

著者

オリンパス株式会社
科学開発 開発5
臼井省吾
 

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