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顕微鏡カメラを選ぶためのチェックポイント

近年の技術進歩により、多くの顕微鏡専用カメラが市場に登場するようになりました。これらのカメラに用いられる最新の手法と技術を要約してご紹介します。研究や実験において、高画質の画像を取得し、最新技術から得られるメリットを最大化するためのガイドラインとしてお使いください。

画質の鍵となる要素

優れた顕微鏡イメージングを確保するための最も重要な要素は、アプリケーションに適した光学系とカメラを選択することです。例えば、sCMOSカメラは、多くの蛍光イメージングにとって素晴らしい選択ですが、 生物発光イメージングなどの長時間露光アプリケーションには適しません。以下のセクションでは、主要な要素の詳細を説明し、アプリケーションに応じた顕微鏡カメラの特性と強みに関して検討します。

分解能:顕微鏡は、光学的に解像が困難な微小構造の観察に使用されます。これらの光学的限界は、画素数の多さまたは画素ピッチの狭さが常に高い分解能を提供できるわけではないことを意味します。優れた分解能を達成するための鍵は、開口数(NA)に応じた適正な画素ピッチ、光学システムのトータル倍率、標本の空間周波数を選択することです。図1は、500nmのライトと5µmの画素ピッチを持つイメージングシステムの反応を示す変調伝達関数(MTF)の図です。図1(a)は、サンプリング周波数の1/2に相当する、またはセンサーの画素ピッチの反転を示すセンサーのナイキスト周波数が、数式1で決まる光カットオフ周波数よりも低いことを示しています。この場合、高い分解能を達成するために、より狭い画素ピッチを試す価値があります。一方、図1(b) および(c)の場合は、標本からのライトが、光学システムの点像分布関数(PSF)法の画素ピッチよりも広く分布しているため、小さな画素センサーでは高い分解能を提供できません。標本の空間周波数も、注意深く検討すべきです。工業標本は切端が鋭いことが多く、これは、生物標本よりも空間周波数が高いため、高いサンプリングピッチが必要となることを意味します。

図1 – PSFと画素ピッチの関係を説明するためのMTFプロット(左)と概略図(右)。(a) 10倍 NA 0.4、(b) 10倍 NA 0.2、(c) 40倍 NA 0.9

図1 – PSFと画素ピッチの関係を説明するためのMTFプロット(左)と画像の画素配列を標本上に投影した図(右)。(a) 10倍 NA 0.4、(b) 10倍 NA 0.2、(c) 40倍 NA 0.9

(数式1)

感度およびノイズ:信頼できるデータには、高いシグナル/ノイズ比(SN比)が極めて重要です。非常に明るい標本では、簡単に望ましい条件を満たす事ができる場合もありますが、実際には、SN比には物理的/技術的限界があります。物理的限界は、センサーチップ内に生成される光電子の数における統計的エラーに起因します。このエラーは、標本の明るさとカメラの感度によって決まります。カメラの感度は、量子効率(QE)と画素面積によって決まります。よく言われるように、QEだけが感度上昇の影響因子ではありません。画素ピッチは、わずかな上昇であっても、大きな改善をもたらすことができます。例えば、センサーの画素ピッチを5.5µmから6.5µmに変更した場合、感度は約40%向上しますが、QEが75%から90%になった場合の感度の向上は20%に留まります。QEは、観察に使用する波長に応じて注意深く確認する必要があります。カラーカメラのQEは最大60%ですが、カラーカメラのセンサーに通常採用されているBayerのカラーフィルターによって、画素数のうち1/4から1/2のみで各波長の蛍光ライトが検出できるという点にも注目すべきです。

技術的限界は、主に暗電流と、電流の電気ノイズなどの読み出しノイズが原因によるものです。センサー冷却は、現在ではCMOSおよびsCOMSセンサー上の高温画素を抑制するために使用されますが、従来は長時間露光での暗電流抑制手段として使用されていました。しかし、ほとんどのカメラは露出時間が2秒未満であるため、暗電流は問題にはなりません。これらの限界は数式2および3で表され、カメラの感度および読み出しノイズが、短い露出時間における優れたSN比の主要な因子であることを示しています。例えば、使用するカメラの読み出しノイズが3 e-rmsで、暗電流が0.05 e-/s/画素の場合、露出時間2秒未満での背景ノイズに対する暗電流の影響は、読み出しノイズの影響よりも小さく、その差は小数点以下2桁程度です。

(数式2)

(数式3)

フレームレート:ライブ画像の閲覧におけるスムースな操作のためにまず必要となるのは、高速フレームレートです。USB3.0などの高速インターフェースおよびCMOS技術により、最近のカメラの多くは、実用分解能で毎秒30フレーム(fps)を超える速度のフレームレートが可能です。しかし、さらに高速のフレームレートが必要なアプリケーションも多く存在します。例えば、(1) 速い顕微鏡操作に追随するスムーズなライブイメージングが必要な病理学的診察や症例検討会議、(2) 高速の生物学的現象の高画質イメージング、(3) ライトシート顕微鏡法(LSFM)などの容積観察、(4) 画像処理ベースの超解像などのコンピューターイメージングなどが考えられます。暗視野蛍光観察の場合、露出時間には実用上の限界があります。この問題を解決するため、SN比を増強するためのビニングまたはその他の画像処理技術が用いられます。ロールシャッターによる画像の歪曲は、CMOSセンサーの高速読み取り機能に伴う影響です。高速で移動する標本に対しては、グローバルシャッター後のグローバルリセット機能が理想的なソリューションであり、歪曲を抑えることができます。

ダイナミックレンジ:モノクロカメラについては、ダイナミックレンジは、アナログ-デジタル(AD)変換のビット深度ではなく、 ビットでの読み出しノイズに対する画像データの全ビット深度の比を比較する必要があります。適正なハイエンド16ビットカメラでは、一般的な蛍光イメージングにおいてダイナミックレンジの問題はほとんど起こりません。カラーカメラを用いる状況では、異なります。カラー画像データは、標準的なモニターではRGBチャンネルごとに8ビットまでという制限があります。ヒトの目が、常に明るさに対して調節する機能により優れたダイナミックレンジを持つことを考えると、8ビットでは不十分です。優れた画質の鍵は、ヒトの目の反応に一致するよう設計されたコントラスト曲線です(図2)。

図2 – 適切に設計されたコントラスト曲線を持つ画像の例(左)。薄明るい細胞と暗い多層細胞の両方が見えます。不十分な設計のコントラスト曲線(右)では見えません。

図2 – 適切に設計されたコントラスト曲線を持つ画像の例(左)。薄明るい細胞と暗い多層細胞の両方が見えます。不十分な設計のコントラスト曲線(右)では見えません。

視野(FOV):カメラの中には、倍率1倍のカメラアダプターでも、18mmを超える対角線距離のFOVを提供できる大型画像センサーを備えたものもあります。比較的小型のセンサーを持つその他のカメラは、倍率1倍未満のレンズの付いたカメラアダプターを使用して広いFOVを達成します。しかし、この方法ではシェーディングや光学収差が懸念され、特に光学軸からより遠くを見る場合(18mmを超える対角線距離)(図3)、あるいは画像貼り合わせを行う場合(図4)に顕著です。

図3 – FOVのサイズに対する輝度の平面度を示す概略図。通常、低倍率アダプターまたは大型センサーによって提供される広いFOVは、狭いFOV配置(A)よりも平面度が悪く(B)なります。平面度は、対物レンズと光学配置に大きく左右されます。

図3 – FOVのサイズに対する輝度の平面度を示す概略図。通常、低倍率アダプターまたは大型センサーによって提供される広いFOVは、狭いFOV配置(A)よりも平面度が悪く(B)なります。平面度は、対物レンズと光学配置に大きく左右されます。

図4 – シェーディング(輝度の不均一性)は、画像貼り合わせにより顕著になります(右)。個別のFOV画像(左)よりも不明瞭です。

図4 – シェーディング(輝度の不均一性)は、画像貼り合わせにより顕著になります(右)。個別のFOV画像(左)よりも不明瞭です。

色再現性:ヒトの目はカメラのセンサーと異なるスペクトル反応を示すため、カメラメーカーは、顕微鏡の接眼レンズを通して観察する色に似た色をモニター上で表現するために複数の技術を使用する必要があります。適切なホワイトバランス(WB)は、適切な色再現性を実現するための最初のステップです。明視野(BF)観察専用の自動ホワイトバランス機能は、ライブBF画像での「白い」背景を自動で検出するため、時間のかかるマニュアル操作を軽減します。高い色忠実度を達成するため、通常の画像処理には、センサーからのRGBシグナルをモニター上でR’G’Bシグナルに変換するカラーマトリクスが含まれます。しかし、例えばDAB染色によるブラウンとエオシンレッドはどちらも赤のシグナルを含んでいるため、ブラウンからレッドを個別に補正することを妨げる多くの独立した軸によって、このプロセスが制限されます。多軸色補正は、この制限を回避し、色を様々な染色に最適化するための1つの方法です(図5)。色空間、およびモニターとの色のマッチングも重要です。Adobe RGB色空間は、広範な色を表現することが可能であり、マッソントリクローム染色などの鮮やかな緑色には特に有用ですが、Adobe RGBモニター用の画像データは、適正なICCプロファイルの交換がなければ他のsRGBモニター上に表示できません。

図5 – 伝統的な色補正、(左)エオシンの赤色強調は他の全ての染色に影響しますが、多軸色補正(右)は各染色における色の独立した最適化を可能にします

図5 – 伝統的な色補正、(左)エオシンの赤色強調は他の全ての染色に影響しますが、多軸色補正(右)は各染色における色の独立した最適化を可能にします

このホワイトペーパーで取り上げてきた主要な要素は全て、個別のものではありません。特に、分解能、感度、フレームレート、およびFOVは、深く関わり合っています。標本の一領域を観察する際には、狭い画素ピッチが高い分解能を提供するものの、感度は低くなります。一方、低倍率のカメラアダプターでは、分解能は低くなるものの、感度が増し、FOVが広がります。調製中の標本に対する光毒性のダメージを避けるためには、露出時間を短縮し、フレームレートを上昇させるビニングの使用が有用です。確かに、ビニング技術の使用によって分解能が犠牲になることはありますが、実験の設定段階では分解能はそれほど重要ではありません。

画像処理および機能的イメージング

アプリケーションによっては、従来の光学的および物理的限界を超えるために画像処理が用いられることがあります。焦点拡大画像(EFI)技術は、特に実体顕微鏡において、厚い標本を1枚の画像に撮影することが可能です(図6)。高ダイナミックレンジ(HDR)イメージングは、反射標本を捕捉することができるため、工業検査によく用いられます(図7)。蛍光ライブ画像のSN比を増強するための技術もあります。例えば、自動マルチフレーム平均化は、顕微鏡のステージが静止している時にのみ機能し、標本への光毒性のダメージを最小化しながら、高速フレームレートと高SN比を両立するための1つの方法です。

図6 – EFI:(左)EFIなし、(右)EFIあり

図6 – EFI:(左)EFIなし、(右)EFIあり

図7 – HDR:(左)HDRなし、(右)HDRあり

図7 – HDR:(左)HDRなし、(右)HDRあり

まとめ

画質に関する検討は、鍵となる要素が相互に関係し合うため複雑になりますが、顕微鏡カメラを選ぶ際には、顕微鏡観察にとって最も重要な要求に基づいて意思決定することが最善の策です。市場には幅広いカメラの選択肢があり、それぞれの要素についてバランスのとれたシステムを構築することができます。購入の前に全体を評価することは、検討しているアプリケーションに合ったカメラを決定するための確実な方法です。複雑さや性能はカメラごとに異なっており、仕様書にはそういった技術的背景の説明は記載されないことが多いためです。アプリケーションに合った光学系とカメラを選択することは、より多くのデータや高い画質を提供し、高度な画像処理によって、顕微鏡イメージングにおける従来の限界を超えることを可能にします。

著者
小蒲 健夫
サイエンティフィックソリューションズ事業部
Olympus Corporation of the Americas

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