オリンパスは、長年ライフサイエンス研究、医療、工業などの幅広い分野の発展に貢献することを目指して事業を展開してきました。そして、その中の一つが、画像解析装置メーカーに装置組込用の高性能対物レンズを供給するビジネスです。
製品品質を均一に保つことは製造業では当たり前の課題で、装置メーカーのお客様とお話をする中でも、装置で得られる画像の均一性に関するお悩みはよく耳にします。たとえ高性能な装置が設計できたとしても、組込対物レンズの性能の影響で製造⼯程におけるバラツキ(製造誤差)が大きい場合、エンドユーザーに約束する品質、コスト、納期が達成できないためです。このようなお客様からの声を受けて、オリンパスは画期的な技術イノベーションに取り組んできました。
こうしたイノベーションの中でも最新と言えるのが、オリンパスが2019年に発売した高性能対物レンズシリーズ「X Line」です。従来はトレードオフの関係にあった、NA、色収差、フラットネスという大切な3つのパラメーターを高いレベルで同時に実現しただけではなく、「波面収差コントロール」という技術を採用することで、装置メーカーが抱えていた対物レンズ性能のバラツキという課題に対するソリューションを提供しています。
対物レンズの光学性能(波面収差)を測る指標として、ストレールレシオと呼ばれる数値が一般的です。ストレールレシオは、理想的な無収差光学系の像面での集光割合(中心強度)を100%とした時、それに対して、実際の光学系が集光できる集光割合を%(パーセンテージ)で示したものです。数値が高くなるにつれて、光学系の品質が良くなることを意味します。例えば、オリンパスの対物レンズの中では、MPLAPON50X、MPLAPON100Xが、光学性能(波面収差)をストレールレシオ95%以上で保証しています。
では、なぜ波面収差がそれほど重要なのでしょうか?「波面収差コントロール」とそのメリットを簡単に紹介します。
「波面収差コントロール」がどのように性能バラツキを抑えるのでしょうか?
対物レンズの性能を向上させる過程で、その内部構造は段々と複雑・微細化してきています(図1)。そのため、対物レンズの製品品質は、製造工程における誤差による個体差を生じやすく、結果的に最終製品の装置の性能バラツキの要因になるケースがあります。
この性能バラツキを抑えるため、オリンパスでは、高性能対物レンズシリーズ「X Line」とその他の一部の対物レンズの組立工程で、対物レンズの波面収差を測定しています。波面収差は、理想的な結像と実際の結像とのズレである収差であり、対物レンズの品質として管理されます。対物レンズ個々の波⾯収差を測定し、理想(無収差)の状態に近づけるようにコントロールすることで、従来の対物レンズ(図3-(a))に⽐べて光学性能のバラツキを極めて⼩さく抑え、安定した品質(図3-(b))を実現しています。
図2:レンズ、対物レンズ検査のイメージ図 |
(a)不良な波面 | (b)良好な波面(X Line) |
図3:波面のイメージ図 |
波面収差コントロールされた対物レンズを装置に組み込むことで得られる3つのメリット
- 高品質
画像解析装置では、画質がソフトウェアによる測定の精度やスピードに影響します。安定して高画質が得られる波面収差コントロールされた搭載した対物レンズは、信頼性を必要とする画像解析装置への組み込みに非常に有効です。
- コスト削減
対物レンズ性能のバラツキにより、期待した装置の性能がでない場合、例えば、対物レンズを廃棄せざるを得ないというような追加コストが掛かります。品質と性能を高いレベルで安定させた、波面収差コントロールされた搭載した対物レンズを採用することで、そのようなコストの削減が可能です。
- 安定した納期
装置に期待される性能レベルが非常に高い場合、装置組込対物レンズの品質のバラツキによって、追加的な調整が必要となり、装置の生産リードタイムが長くなるリスクがあります。「波面収差コントロール」により品質が安定している対物レンズを搭載すれば、装置メーカーでの対物レンズの安全在庫は維持したまま、エンドユーザーへの納期を安定させることができます。