医学・生命科学の研究において、細胞レベルだけではなく動物モデルを使用した実験も大変重要であり、顕微鏡下で生態観察を行う研究は年々増えています。そのIntravital Imagingをしている研究者にとって大きな課題となっているのが、臓器の拍動や動物自体が動いてしまったりすることにより観察面が動いてしまうことです。
エビデントは、標準の顕微鏡システムに加えて、お客様のご要望に合わせたカスタマイズソリューションの提案が可能です。今回Intravital Imagingの課題を解決に導く「マウス臓器観察用吸引固定ユニット」についてご紹介いたします。
マウス臓器観察用吸引固定ユニットの例
研究者の課題
Intravital Imagingにおいて、長時間観察を行う際に個体が動いてしまったり臓器の拍動や脈動により観察面が動いてしまうことで、生体タイムラプス実験で苦が生じている。これらの解決に向け、実験で苦労していることをより詳細には把握するためにマウス生体で長時間タイムラプス実験を行っている研究者にヒアリングを行い、次のことがわかりました。
- 観察部位の中でも耳殻や生体外に取り出すことのできる腸などと比較して、脾臓や肝臓などの臓器は観察が難しいこと
- とりわけ心臓に近い臓器の観察が拍動の影響を受けやすいこと
- マウスの「動き」と言っても拍動・のようなミリオーダーのものだけでなく細かいμメートルオーダの動きも観察を困難にしている原因であること
エビデントのカスタマイズソリューションで課題を解決
観察面でのマウスの拍動を抑えるために考案したのが、mmオーダの動物の動きを、吸引手段を用いて物理的に取り除く手法です。ドーナツ型の金具と吸引ポンプを用いて観察部位を陰圧で掬い上げ観察部位を固定し、動きも最小限に抑えることで心臓からの大きな拍動の影響を抑えることに成功しました。
もう一つの課題:長時間観察に十分な浸液の保持
また、生体でタイムラプス観察を行う上では液浸系対物レンズを使用することが一般的ですが、表面張力によって観察面にて保持できる浸液量は少量であり、長時間の観察中に蒸発してしまいます。さらに実験中に浸液を補充しようとすると温度変化が生じてしまったり、物理的に圧力が加わってしまうことで、観察面や観察部位のズレが発生してしまうという問題がありました。そこで長時間観察に十分な浸液を保持できる機構も設け、浸液補充をすることなく、長時間の観察を行うことができるようにしました。
こうして出来たのが、「マウス臓器観察用吸引固定ユニット」です。これまで研究者が実験の度に試行錯誤しながら生体の固定を行っていましたが、このユニットを用いることで観察までの準備時間を短縮することができ、研究者の負担も軽減できるとともに、生体の活性を保ったまま安定した長時間タイムラプス観察をすることが可能になりました。
生体でのタイムラプス観察事例
マウス臓器観察用吸引固定ユニットの機能を、京都大学松田研究室とのご協力のもとで撮影したタイムラプス動画にてご覧ください。
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- 画像撮影条件
- Sample: Eisuke mouse
- Objective: XLPLN25XWMP
- Laser: 840 nm
- Zoom: 1x (left), 3x (right)
- Z position: 0 µm(bottom), 20 µm(upper)
- Interval: 40 sec.
- Total time of experiment: Approximately 2.5 hours
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- 画像撮影条件
- Sample: Eisuke mouse
- Objective: XLPLN25XWMP
- Laser: 840 nm
- Interval: 30 sec.
- Total time of experiment: Approximately 1 hours
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- 画像撮影条件
- Sample: Eisuke mouse
- Objective: XLPLN25XWMP
- Laser: 840 nm
- Z position: 0 µm (left), 7.5 µm (middle), 15 µm (right)
- Interval: 2 min.
- Total time of experiment: Approximately 3 hours
カスタマイズソリューションについて
エビデントは、本ユニット以外にも先進の顕微鏡テクノロジーを備えた標準システムの拡張ソリューションの提供が可能です。詳細は こちら
※マウス臓器観察用吸引固定ユニットは、弊社の特許技術(特許第3586157号)を用いた製品です。
※※本画像・動画は、京都大学松田研究室のご協力のもと、FRETプローブを発現させたマウスを使用しています。