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近赤外イメージングの将来に関する多喜先生へのインタビュー

著者  -
多喜正泰准教授

多喜正泰先生は、 新たな蛍光染料と近赤外(NIR)蛍光に基づくプローブの開発を通して、これまでは見ることができなかった生物学的現象の解明に取り組んでいます。このインタビューでは、多喜先生がプローブ開発に焦点を当てる理由、プローブ開発過程での問題解決にFV3000 Redシステムがどのように役立っているか、そしてNIRイメージングの将来について伺いました。

多喜正泰准教授のご紹介

多喜先生は大阪大学で工学博士号を取得し、現在は名古屋大学のトランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)の准教授を務めています。

多喜先生の研究対象は化学生物学の領域で、蛍光顕微鏡を用いた生物学的現象のほか、特に特殊な生命分子を可視化するための合成化学ツールの開発に力を入れています。NIR蛍光による長時間タイムラプスイメージングと細胞内イオンの検出に関する数々の論文を発表されています。

Q:現在、力を入れている研究はどのようなものですか?

多喜先生:私とチームの主な研究は、細胞小器官イメージング用の蛍光染料開発と、それらの染料から蛍光プローブを開発することです。

蛍光染料と蛍光プローブは意味合いが少し異なると思います。蛍光染料は基本的に絶え間なく発光しますが、蛍光プローブは反応によって発光を変化させます。私たちが開発した蛍光染料は、細胞内で発生する事象を感知するプローブの開発につながりました。

現在は、細胞小器官を形成する脂質に特に関心を持っています。先日、脂肪酸代謝を可視化できるプローブの開発と、そのイメージングアプリケーションに関して報告しました。蛍光タンパク質は膜タンパク質を標識できるものの、脂質膜自体を標識することはできません。私はここに有機蛍光染料の強みを利用できると信じているので、その研究をしています。それで近赤外蛍光染料とプローブの開発があるわけです。NIRイメージングに蛍光タンパク質を使用するのは難しいため、蛍光分子が役立ちます。

Q:蛍光染料開発とプローブ開発に焦点を当てたのはなぜですか?

多喜先生:蛍光タンパク質は蛍光イメージングの強力な手段です。しかし先ほど話したように、蛍光タンパク質を用いて脂質と糖鎖の動態を直接観察することはできません。もう1つの問題は、蛍光タンパク質は弱まりやすいので、長時間にわたり観察を続けるのが難しい、ということです。

私がイメージングに興味を持つようになったのは、アメリカのノースウェスタン大学で研究していたときのことで、Thomas V. O'Halloran教授の研究室のメンバーが亜鉛蛍光プローブを合成していたのです。細胞内で成長する分子の観察がとても美しく魅力的だったので、教授が夏休み中にもかかわらず、大胆にも研究テーマを変えてしまいました。

それ以来、蛍光染料とプローブの開発を続けています。しばらくはバイオメタルのイメージング研究を行っていましたが、名古屋大学に移ってからは「分子にしかできないことは何か」を考え始め、それが現在の脂質動態観察とNIRイメージングに関する研究につながりました。

Q:実験を行う上で、FV3000 Redシステムはどのように役立っていますか?

多喜先生:私たちが開発した蛍光色素の1つであるPREX710は、蛍光ピークが740 nmです。通常の共焦点顕微鏡で使用するGaAsP PMT検出器は、750 nmを過ぎると急激に感度が低下するので、通常の蛍光観察では明るさが十分であっても、NIR蛍光色素には向きません。しかし、FV3000 Red GaAs PMT検出器を使用すると、これまで観察が難しかったNIR蛍光染料を観察できるので驚きました。FV3000 Redシステムを使うと、以前はあきらめていたものが観察できるので、過去の実験を見返しているところです。

FV3000 Red NIRソリューションを使う利点の1つは、近赤外領域の観察チャンネル数を増やせることです。開発中の近赤外蛍光染料を、シリコンローダミン(SiR)と併用できます。優れた耐光性と光照射による細胞損傷の低さを特徴とするこれらの化合物によって、細胞小器官の接触を長期にわたり観察できます。FV3000 RedシステムのTruFocus™ Zドリフト補正は、特に観察が数時間にも及ぶ場合には欠かせません。FV3000 Redシステムのレーザー、検出感度、Zドリフト補正の組み合わせは非常に役立ちます。

微小管と小胞体のマルチカラーイメージング

Q:NIRイメージングの将来をどのように見通していますか?

多喜先生:現在、NIRイメージングに携わっているほとんどの研究者は、深部の生物学的観察を行っていると思います。もちろん深部イメージングの有用性を明らかにするのは重要ですが、私としては細胞イメージングに的を絞った研究を発展させたいです。細胞イメージングで直面する光毒性、蛍光退色、自家蛍光といった課題は、PREX710などのNIR蛍光色素によって克服できます。FV3000 Redシステムの785 nmレーザーに対応する蛍光染料を開発すれば、近赤外マルチカラー観察が可能になります。

ただし、近赤外蛍光染料の蛍光量子収率はそれほど高くなく、発光輝度の低さが主な問題となっています。低輝度であるということは、励起レーザー出力を強くする必要があり、活性酸素種(ROS)量の増加と細胞の損傷につながります。これでは近赤外光を使用する効果が半減します。

この低輝度の理由を解明して課題を克服するとともに、分子を開発して、世界中の研究者が使いたがるものを作りたいです。また、NIR対応の脂質動態観察プローブがまだ存在しないので、世界に先駆けて開発したいと思っています。優れた蛍光染料とプローブを開発し、細胞レベルのNIRイメージング例を積み重ねていけば、もっと多くの研究者がそれらを使うようになり、化学の領域からライフサイエンス研究の進歩に貢献できると考えています。

共焦点顕微鏡用の近赤外(NIR)ソリューション

FV3000 Redシステムは、FV3000顕微鏡の波長検出能力をNIR領域まで広げます。FV3000 Redシステムは、NIR検出用の各イメージングモジュール(レーザー、対物レンズ、検出器など)をアップグレードすることで、より感度の高い正確なマルチカラーNIRイメージングに特化したソリューションになります。

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参考文献

  1. A negative-solvatochromic fluorescent probe for visualizing intracellular distributions of fatty acid metabolites
    K. Kajiwara, H. Osaki, S. Greßies, K. Kuwata, J-H. Kim, T. Gensch, Y. Sato, F. Glorius, S. Yamaguchi, M. Taki Nat. Commun., 13, 2533 (2022).
  2. Late-stage Functionalisation of Alkyne-modified Phospha-Xanthene Dyes: Lysosomal Imaging Using an OFF-ON-OFF Type of pH Probe
    H. Ogasawara, Y. Tanaka, M. Taki, S. Yamaguchi
    Chem. Sci., 12, 7902-7907 (2021).
  3. A Highly Photostable Near-Infrared Labeling Agent Based on a Phospha-rhodamine for Long-Term and Deep Imaging
    M. Grzybowski, M. Taki, K. Senda, Y. Sato, T. Ariyoshi, Y. Okada, R. Kawakami, T. Imamura, S. Yamaguchi Angew. Chem. Int. Ed., 57, 10137-10141 (2018).
  4. A Highly Photostable Near-Infrared Labeling Agent Based on a Phospha-rhodamine for Long-Term and Deep Imaging
    M. Grzybowski, M. Taki, K. Senda, Y. Sato, T. Ariyoshi, Y. Okada, R. Kawakami, T. Imamura, S. Yamaguchi Angew. Chem. Int. Ed., 57, 10137-10141 (2018).

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ライフサイエンスリサーチマーケティング担当

入社以来共焦点顕微鏡や超解像顕微鏡製品のサポートを担った後、2022年からライフサイエンスリサーチマーケティング部に所属。日本の東京理科大学で学士(理学)号取得。

2023年3月14日
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