脱髄後7日の回復したマウス小脳器官型切片。軸索はNeurofilament-Hにより緑色に見え、ミエリンはミエリン塩基性タンパク質で赤色に標識され、GSTpiは青色に標識されたオリゴデンドロサイト細胞体です。サンプル提供:Katherine
Given, MS, University of Colorado Denver. SLIDEVIEW VS200リサーチスライドスキャナーとSILAモジュールを使用し、20Xで撮影。
広視野蛍光顕微鏡では薄いサンプルの高解像度イメージングが可能です。しかし厚みのあるサンプルに関しては、バックグラウンド蛍光がボケの原因となるため、イメージング能力が限られてしまいます。
では、厚いサンプルの画像からボケを取り除くにはどうすればよいでしょうか。答えは光学セクショニングにあります。この手法では広視野イメージングの限界を効果的に克服できますが、従来は共焦点システムまたはボケ修正ソフトウェアを必要としていました。
現在、光学セクショニング技術はリサーチスライドスキャナーに搭載されています。つまり、研究者たちは厚いサンプルのイメージングに共焦点機能の恩恵を受けることができ、さらにはスループットが大きく向上します。では、この光学セクショニング法の利点の詳細と、従来の手法との比較についてご説明します。
厚いサンプルに対する広視野イメージングの制限事項
広視野観察は、薄いサンプル(<10 µm)に対して高い効果のある一般的なイメージング法です。広視野観察では、焦点の合った面と合わない面の両方がカメラに取り込まれます。薄いサンプルについては問題ありません。しかし厚みのあるサンプルをイメージングすると、避けられないバックグラウンド蛍光がボケを生み、コントラストが低くなって、対象構造が不明瞭になります。
この問題は、共焦点顕微鏡やその他の走査型照明法で克服できます。照明を固定パターンに方向づけることで、光学セクショニング画像が生まれます。これらのシステムでは、好ましい条件下で優れた画像を作り出せます。ただし、かなりの費用を伴います。また、明確で制御された照明パターンをサンプルに届けることが求められます。
異なる照明法による厚いサンプルのイメージング
画像のコントラストと品質に対するバックグラウンド蛍光の作用をなくすために、明瞭で制御された照明パターンは必ずしも必要ではありません。HILO観察法として知られる手法では、ランダムなスペックルパターンを使用して蛍光サンプルに照明を当てます。スペックルパターンは本質的に高コントラストの粒状輝度を示すことから、スペックル照明で取得した蛍光画像は粒状に見えます。この粒状性がコントラストを生み、サンプルに焦点が合う度合いを直接指示できるようになります。
HILOイメージングでは、2つの未加工画像を収集して処理します。1つ目は均一照明で照らされた通常の広視野画像です。この画像にハイパスフィルターを適用して、高周波数情報を抽出します。これがHIRO観察法の「HI」にあたる部分です。この段階で、焦点の合った情報と合わない情報の両方を含む、低周波数情報が取り除かれます。
2つ目の画像はスペックル照明を使用して取得したもので、低周波数の焦点の合った画像情報を復元します。言い換えると、HIRO観察法の「LO」にあたる部分です。これらの画像に対して、焦点の合った情報を抽出してバックグラウンド蛍光を取り除くアルゴリズムを使用して処理します。次にこの2つの画像を融合させて(図1)、全周波数範囲の情報を含み、焦点の合わない光を取り除いた画像を取得します。
SILA光学セクショニングツールは、HIRO観察法をベースにした、SLIDEVIEW™ VS200リサーチスライドスキャナー向けの高スループットイメージングソリューションです。この広視野顕微鏡向けのアドオン技術では、焦点の合わない光が取り除かれます。注目すべきは、共焦点顕微鏡と同等のシャープな光学セクショニングです。SILAツールは、どのVS200システムにも簡単に追加できます。厚みのあるサンプルの高品質な光学画像を必要とする、幅広いアプリケーションに効果を発揮します。
図1:20Xのマウス腎臓切片。VS200スキャナーのSILAツールは、均一照明画像とスペックル照明画像を結合させて、シャープな光学セクショニングによる1つの画像を作り出します。
1つのパラメーターで調整可能な光学セクショニング
SILAツールは従来の広視野画像とスペックル画像を数学的に処理するため、セクショニング厚さ(ST)のパラメーター1つを使って光学セクショニングの度合いを調整できます。STを高く設定すると、高い視野深度からの情報が画像に表示されます。これが広視野画像の外観を作り出します。
図2はST5で取得した脳切片を示しています。この高いST値では、焦点の合わない領域が多く残っています。ST値を下げると、低い視野深度からの情報が画像に表示されます。したがって、ST2とST1で取得した脳切片を観察すると、焦点の合った情報が残っている一方で、焦点の合わない情報はなくなります。
このような光学セクショニングの調整機能によって、バックグラウンド蛍光を取り除くとともに、さまざまな深度での観察が可能になります。VS200スキャナー用SILAツールが持つこの機能は、共焦点顕微鏡システムでピンホール径を変える場合と同様の効果があります。
図2:tdTomatoで標識し20Xで取得したマウス脳サンプル。
厚いサンプルのボケ除去:SILAイメージングとその他の手法の比較
SILAツールが開発される前は、VS200スキャナーには広視野画像から焦点の合わない光を除去する別のソリューションがありました。TruSight™デコンボリューションソフトウェアを使うと用いれば、2D強制反復(CI)アルゴリズムによる画像デコンボリューションが可能です。このソフトウェアベースの手法では、ある程度の焦点の合わない光を除去する効果はあります。しかし、ソフトウェアとハードウェアを組み合わせるSILAモジュールほどのボケは除去できず、光学セクショニングの調整機能もありません。
ただ、SILAの光学セクショニングが不可能な薄いサンプルを観察する場合には、デコンボリューションが有効な選択肢となります。ソフトウェアでデコンボリューション処理した従来の広視野画像と、SILA画像の画質の違いを図3に示します。
図3:20Xで撮影したプラナリアSchmidtea mediterraneaの腸。青色:DAPI。緑色:腸内部細胞。赤色:腸外部細胞。 サンプル提供:Amrutha Palavalli, Department for Tissue Dynamics and Regeneration, Max Planck Institute, Göttingen,
Germany.
SILAイメージングの用途:厚い細胞層から組織サンプルまで
SILA光学セクショニング技術は多くの研究分野に大きな価値をもたらします。特に、固定された厚い細胞層や組織サンプルのイメージングに有効です。セクショニング調整機能に加えて、共焦点顕微鏡と同等のボケ除去と画像コントラストが可能なSILAは、スループットを大きく向上させ、て高品質な画像を提供します。
サンプルの形態を保持するために厚い組織切片を扱うことが多い神経科学イメージングでは、厚みのあるサンプルをイメージングできるの点は有益です。脳切片のイメージングは難しいことで知られています。特にやっかいなのは、光散乱作用を生む脳組織の性質です。
従来は、高品質・高コントラストの画像を取得するために、共焦点顕微鏡や二光子励起顕微鏡システムが必要でした。しかし、これらのシステムで脳切片などの広い領域をイメージングするのは、かなり時間がかかります。SILAツール搭載のVS200システムで自動スライドスキャンを行えば、広い領域にわたる厚いサンプルのイメージングが断然早くなります。わずかな時間で高品質画像が得られます(図4)。
図4:200 μmのマウス脳切片。4Xで撮影した概観。細部のスキャンは20Xで撮影した47 μm
Zシリーズの拡張焦点画像(EFI)。青色:DAPI。緑色:GFAP(グリア)。黄色:MAP2(ニューロン)。
SILAイメージングが有益な分野としてはオルガノイド研究も挙げられます。オルガノイドイメージングには脳科学と同様の難しさがあります。サンプルの厚さに加えて、オルガノイドの形態を正しく探求できるように広い領域をイメージングする必要があります。
ホールスライドスキャナーであるSILAモジュール搭載VS200システムは、こうした大きなサンプルのイメージングに必要なカバー力を備えています。それに加えて、自動画像処理、サンプルに依存しない点広がり関数(PSF)、簡単なワークフローによって、画像取得が高速になりすばやく行えます。またSILAツールは、がん研究、空間生物学、植物学、発生学のほか、厚いサンプルの広い領域にわたる高品質イメージングを必要とするさまざまなアプリケーションにも価値をもたらします。
SILAイメージングの重要ポイント
SILAイメージングでは、光学セクショニングの調整、サンプルのボケ除去、画像コントラストの向上が可能で、高度な共焦点レーザー走査型顕微鏡に引けを取りません。共焦点システムに比べてスループットが大いに強化されたSILAツール搭載VS200スライドスキャナーは、大きなサンプルや、従来はイメージングが難しいとされていたサンプルの高速イメージングが可能で、 神経科学やオルガノイド研究などに大きな恩恵をもたらします。
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