科学者が脳と体の仕組みについての新たな見識を求めるなら、これまでよりもさらに深く掘り下げる必要があります。多光子顕微鏡法は、それを実現するための主流技術となりつつあります。この強力なイメージング法では、生体組織深部の動的な細胞活動の3D画像を、非侵襲的に取得できます。
しかし、研究者はしばしば、多光子深部イメージングで発生する光学的な課題である球面収差を見過ごしてしまいます。
ここでは、多光子深部イメージングにおける球面収差の詳細に目を向け、その解決法を検討します。
球面収差とは何でしょう。
簡単に言えば、球面収差は光線が球面レンズを通り、異なる点で収束した時に発生する光学誤差です。光線が1つの焦点に集まらないため、画像の明るさや解像度が低下します。例えば脳の深部領域では、球面収差が発生すると、樹状突起スパインのような微細構造の観察が困難になります。
幸い、顕微鏡対物レンズ技術の革新によりこの誤差は補正可能です。研究者は対物レンズの補正環を用いて内部レンズ要素の位置を変えることで、球面収差を補正できます。しかし、深部イメージング中に手動の補正環で球面収差を補正することは決して容易ではありません。
一般的な問題は次の2つです。
- 多光子システムの暗室環境では、補正環の位置を見るのも、調節するのも困難です。
- それぞれの補正環の調節で、対象の効果的な焦点距離がわずかに異なります。
これらの課題により、多量のZ-スタック画像を取得しながら補正環で複数の位置を調節することは非常に困難となり、各深度での鮮やかな、高解像画像を取得する能力が妨げられてしまいます。
この問題を解決するためには、TruResolution対物レンズなどの電動レンズシステムの使用をお薦めします。電動レンズシステムには2つの大きな利点があります。
1. 操作を容易化。
多光子顕微鏡法は、高度蛍光イメージング技術であるため、顕微鏡の専門家がいなければ画像を取得できる自信がないと感じる研究者がいるかもしれません。電動対物レンズでは、球面収差補正を自動化することで、多光子深部イメージング研究の操作を著しく容易化できます。操作方法を説明します。
下の画像でお分かりのように、従来の補正環が回転すると、焦点面が変化します(図A、左)。それと比較して、電動対物レンズでは、回転角度によって対物レンズのZ-位置が自動で変更されます。また、画像コントラストなどの他覚的な測定量に基づいて補正環の最適化も行います。
この革新的な技術により、様々な外的条件下での操作がソフトウェア制御で容易になります。
下の生体マウスの視覚野内の小膠細胞深度100μmを撮影した2つの画像の違いがお分りいただけると思います。補正環の自動補正後に撮影した画像(右)は、補正環調節前に撮影した画像(左)よりも明るく、微細な糸状仮足様の突起がより解像されています。
画像提供:マサチューセッツ工科大学(MIT)のMitchell Murdock氏
2. あらゆる深度での、明るく鮮やかな画像が取得可能。
自動補正環は光学補正を深度と屈折率プロファイルに合わせることができるので、より明るい画像の取得や生物組織深部のより微細な形状の観察が可能です。
例えば、神経科学者は、脳の深部領域の樹状突起スパインの頭部や頸部などのサブミクロン形状の組織形態学に関心があります。より鮮やかで明確な画像により、研究者はこれらの樹状突起スパインを、学習や記憶の研究のために、より正確に特徴付けることができます。
実際に使用されている様子をご覧ください。最近の研究では、ガラス頭蓋窓を作成した、麻酔をかけたマウスの感覚皮質体内観察が行われました。
画像提供:理研BSI - オリンパスの毛内拡氏、平瀬肇氏及び宮脇敦史氏
TruResolution自動補正環付き対物レンズで撮影した画像(右上、B)は、補正環を表面に固定して撮影した画像(中央右、C)よりも解像度が高く、明るいです。
TruResolution対物レンズによって向上した画質では、固定補正環で撮影した画像(右下、E) よりも樹状突起スパインの詳細を容易に観察(左下、D)できます。
より深い発見を
深部での多光子イメージングにより、研究者はアルツハイマー、パーキンソンおよび多発性硬化症といった神経学的疾病および疾患の理解を深めることができます。FVMPE-RS多光子レーザー走査型顕微鏡用のオリンパス電動対物レンズでは、詳細に焦点を絞り、人生を一変させるような新たな発見をするための、鮮明で明るく、正確な画像が取得できます。