フローサイトメトリーは、蛍光マーカーを使用して大きな細胞集団の分子マーカーを迅速に評価することにより、細胞集団を識別およびセグメント化するための主な手法の1つです。しかし、フローサイトメトリーには限界があるため、他の手法で対処する必要があります。画像解析ツールの利点を生かしたイメージサイトメトリーは、大きな細胞集団を評価しながら、より多くの情報にアクセスできる優れた方法として注目されています。
このブログでは、フローサイトメトリーの詳細を説明し、イメージサイトメトリーの分野の拡大によって、研究者たちの作業を改善する優れたツールとなっている様子について見ていきます。
フローサイトメトリーとは
細胞集団の分子マーカーを識別、解析する主なツールとして、何十年にもわたりフローサイトメトリーが使用されています。この手法では、細胞は単細胞懸濁液に分離され、対象マーカーをターゲットにする蛍光タグ抗体で標識されます。次にこれらの細胞はフローサイトメーターを通ります。ここでは各マーカーの発現を個別に解析でき、細胞集団についての価値ある定量化可能なデータが得られます。
この欠くことのできないツールによって、研究者たちは対象細胞についてタンパク質の存在と強度を定量化して、細胞集団のセグメント化と識別、そして細胞の選別が可能になります。
フローサイトメトリーの欠点
フローサイトメトリーでは、細胞レベルの定量化可能なデータを大量に得られる一方、浮遊状態の単一細胞から測定データを取得しなければならないことによる欠点もあります。
フローサイトメトリーの欠点には以下が挙げられます。
- 培養中の多くの細胞は、組織培養用のプレートやスキャフォールドに付着しているか、他の細胞とともに組織または構造体内にあります。それらの環境から細胞が分離されると、タンパク質発現が変化する場合があります。また、細胞間のタンパク質相互作用に関するデータが失われる可能性もあります。
- 細胞形態や、細胞上の分子マーカーの位置に関するデータにはアクセスできません。
- フローサイトメトリー中に細胞が受けるストレスによって、解析後に成長し続ける力に影響する可能性があります。通常、多くの細胞は成長過程を乗り切れません。
- フローサイトメーターで使用される測定ツールでは、定量的データをグラフで視覚化する際に制約があります。細胞を視覚的に評価することはできません。
これらの欠点から、フローサイトメトリー解析では細胞を環境内で免疫組織化学染色する補足作業が行われます。しかし、ほとんどの画像解析ツールでは同レベルの定量的データが得られない上、個々の細胞の構造的な特徴を、フローサイトメトリーによる解析に1対1で相関付けること不可能です。
イメージサイトメトリーの分野の拡大は、このような懸念事項に対してフローサイトメトリーに匹敵する細胞集団の定量的データが得られる画像解析ツールを使用することで対処できます。これらのニーズを満たすツールの例が、当社のscanRハイコンテントスクリーニングステーションおよびソフトウェアです。
イメージサイトメトリーの利点
イメージサイトメトリーでは、細胞が培養環境内で直接イメージングされ、その画像が対象パラメーターに対する定量解析へと処理、変換されます。
イメージサイトメトリーの利点には以下が挙げられます。
- 分離によるタンパク質発現の変化リスクが低減します。
- 細胞形態やタンパク質局在化に関するデータが維持され、定量的解析に統合できます。例えば、核内マーカーの発現レベルが高い細胞集団を判別できます。
- 解析中に細胞に物理的ストレスがかかりません。さらに、イメージサイトメトリーでは人工知能(AI)技術を活用して、細胞や細胞特性の識別が最小限の染色あるいは非染色で可能です。そのため、解析後に細胞の培養を継続しやすくなります。
- 同じ細胞を長時間にわたりモニタリングおよび追跡できます。これは創薬や細胞分化などに役立ちます。例えば、患者の初代細胞に対する薬の作用をフローサイトメトリーで観察する場合、分離が必要なため、各時点の複製を培養し、処理する必要があります。イメージサイトメトリーでは細胞が培養環境内にとどまるため、同じ複製に対して複数の時点で測定できます。
フローサイトメトリーに慣れている研究者であれば、scanRソフトウェアはデータ表示に用いるヒストグラムや散布図が似ているため、イメージサイトメトリーによるデータ解析に難なく移行できます。フローサイトメトリーと同様に、グラフ内でゲートを使って細胞集団を選択して、マルチレベル解析を実行できます。フローサイトメトリーとは異なり、データが画像から直接収集されているので、各評価パラメーターを画像に相関させて視覚的に確認できます。
次の例について考察します。scanRソフトウェアでは、任意のデータポイントをクリックして対象細胞を観察することも、ゲート設定した細胞集団から画像ギャラリーを作成することもできます。これによって、細胞集団が正しくセグメント化されていることと、正しい対象集団を識別していることの確信が視覚的に高くなります。
scanRソフトウェアでのイメージサイトメトリー。A)細胞として識別されたポイントがゲート設定され、ヒストグラム(B)として表示されます。次に細胞が2つの集団に分けられ、画像ギャラリー内で見ることができます(C、D)。
つまり、scanRソフトウェアによるイメージサイトメトリーでは、フローサイトメトリーの優れた解析ツールを、画像ベース解析の利点に組み合わせています。これらの利点をまとめた以下の表をご覧ください。
フローサイトメトリーとイメージサイトメトリーの利点の比較
フローサイトメトリー | イメージサイトメトリー | |
---|---|---|
細胞の状態 | 浮遊状態 | 培養環境内 |
データセットのサイズ | 無制限 | 無制限 |
データ収集と解析の並行処理 | ✓ | ✓ |
蛍光強度 | ✓ | ✓ |
蛍光局在化と分布 | ✓ | |
細胞形態 | ✓ | |
マルチレベル解析 | 制限付き | ✓ |
細胞選別 | ✓ | |
ラベルフリー能力 | 制限付き | ✓ |
イメージサイトメトリーの多用途なツールセットを使用すれば、画像内に見えるあらゆる特徴(形態、位置、蛍光強度、局在化など)に基づいて大きな細胞集団を定量化および評価でき、細胞にストレスのかかる処理は必要ありません。研究者は実験から広さと深さの両方を追求した結果を収集できるので、品質と効率の高い研究につながります。
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