難聴の多くは、内耳の内部にある感覚有毛細胞が損傷することによって発症します。これらの細胞がどのように機能するかを知り、それらが再生可能かどうかを判断することが、難聴を回復させる鍵になると考えられます。
James Hudspeth氏(医師、医学博士)は、聴覚を分子レベルで研究し、理解することをライフワークにしています。彼が重点的に取り組んでいる研究課題は、内耳の感覚受容体として機能する有毛細胞の発達とその働きです。有毛細胞は自然に再生することはないので、有毛細胞を失うことは聴力の低下と喪失を意味します。
有毛細胞を再生する方法、つまり聴力を失っている人々の聴力を回復させる方法を発見することが、彼の研究の最終的なゴールです。
「根本的に、我々の研究意欲をかき立てているのは、米国では3000万もの人が聴覚に問題を抱えているという事実です。この数字は人口の10%に相当し、言い換えれば我々の誰もがそうした問題を抱えている人を知っているということになります」とHudspeth氏は言います。「世界的にみれば4億5000万人が聴覚上の問題を抱えていることになりますが、おそらくそれは、少なく見積もった場合の数字です。つまり、聴覚上の問題は非常に大きな問題なのです」。
顕微鏡を使って高倍率で有毛細胞を研究する
Hudspeth氏と彼の研究チームがニューヨーク市にあるロックフェラー大学感覚器神経科学の研究室で行うほとんどの作業では、有毛細胞の刺激、観察、分析を高倍率で行うことが不可欠です。現在、Hudspeth氏らは、10台のオリンパス顕微鏡をフルタイムで使用してます。
「我々は25年前にオリンパスの顕微鏡を使い始め、2つの主な理由から今でも使い続けています」とHudspeth氏は言います。「第一の理由は、顕微鏡の品質が非常に高く、筐体、レンズ、そしてすべての部品が高い精度で製造されていることです。第二の理由は、そしておそらくこちらの理由の方が重要なのですが、オリンパスの担当者は、専用の製品が必要だという我々の話に耳を傾けてくれ、研究をはかどらせることのできる変更に応じてくれるのです。」
「我々が何かを達成しようと試みている最中に、どうすればそれができるかをという質問に、オリンパスは答えてくれるのです」と Hudspeth氏は述べています。
難聴の原因となる変異した遺伝子を理解する
突然変異すると難聴を引き起こす可能性のあるものとして、200を超えるさまざまな遺伝子が挙げられます。Hudspeth氏のチームをはじめ、同様の研究を行っている他の多くのグループも、顕微鏡を使って損傷した細胞を観察し、どのようにして損傷が生じたかを究明することにより、これらの突然変異を解明しようとしています。
この研究は発生学的な研究につながります。
「我々は有毛細胞の再生に役立つ可能性のある薬剤を探して80,000種類の化合物をスクリーニングしてきました」とHudspeth氏は説明してくれました。「我々は有望と思える化合物を6つ、そして支持細胞(有毛細胞に変化する細胞)の複製を引き起こす効果が高いことが証明されている化合物を1つ発見しました。我々は現在バイオ企業と共同で、この化合物を、最終的に人間に使用することのできる薬剤にするための研究を行っています。」
「我々の長期的な使命は、聴覚を失いつつある人々や既に失ってしまった人々が、再び聴覚を取り戻すための手助けをすることです」と語ってくれました。