身近なものを感動体験に新しく変えること
Igor
Siwanowicz博士によれば、私たちの多くにとって、毎日自然界の中に見ている大部分は、ありふれたもののように見え始めることがあるものです。しかし、肉眼を超えた拡張した世界に身を置くと、慣れ親しんでいる自然の形が、より抽象的に、混乱を招くほどにもなり始めます。しかし、このギャップが埋まり、自然のデザインとの関係を顕微鏡レベルで体験し始めると、私たちは全く新しい一連の感情になり始める可能性があります。親密さをなくす代わりに、完全に新しい視点を獲得できるのです。
米国のSiwanowicz博士は、コスミックオレンジ・メキシカンアスターの花の葯内で発育する花粉粒を、鮮明に描写した印象的な断面像で、グローバル最優秀賞を受賞しました。
最優秀作品を称えて、Siwanowicz博士には、DP23デジタルカメラまたはX
Line™対物レンズ一式のうち、本人が希望する方が搭載されたオリンパス製SZX7実体顕微鏡が授与されます。
グローバルでの受賞、おめでとうございます!受賞画像は何を表しているのでしょうか?
これは、コスミックオレンジとして知られているメキシカンアスターの花で、成長中の小花の断面を示したものです。黄色の花粉粒が、二葉になった葯5個の内側において、4つの赤い花粉室、すなわち花粉嚢の中に含まれています。中央の構造は発育中の柱頭です。
ここで、アスターの花の生体構造について簡単なおさらいです。星状花はそれぞれ、「目」の周りを花弁に囲まれて構成されます。花弁それぞれは実際に個別の生殖力のない花で、「舌状花」と呼ばれ、花粉や種子を作りません。この「目」は小さな円盤状の小花です。これらのそれぞれも個別の花で、雄の生殖部(雄しべ、葯で終わる)と雌の生殖部(雌しべ、先端に柱頭あり)の両方が含まれています。5つの雄しべがそれぞれ雌しべを囲み、この全体の放射状配置が、5つの結合した裂片からなる、管状花冠に順ぐりに包まれています。雌しべそれぞれが、二葉の葯を4つの花粉嚢と共に運びます。
エビデントのイメージ・オブ・ザ・イヤー、グローバル最優秀賞:コスミックオレンジのアスターの花の断面で、葯内で成熟中の花粉粒が見えます。撮影者:Igor
Siwanowicz(米国)。
この画像について、個人的にどんな点が興味深いですか?
あらゆるスケールで見せる、自然の形に目が止まりますし、興味に火がつきます。自分の記憶を思い出せるずっと前から、常にそうでしたね。今回の場合では、アスターの小花が開く前の、花が組織化される様子を見ることに、好奇心がそそられました。コスミックオレンジの変種を選んだのですが、なぜかというと、毎日作業している、Janelia研究キャンパスの芝生で使っている種構成のうち、私のお気に入りのものだからです。実際、そのオレンジの色合いが好きなのです。
この画像はどのようにして撮像しましたか?
この画像を作り出すために、共焦点顕微鏡と25倍/NA0.8の対物レンズを使用しました。この画像はタイル4枚をスティッチングしてできています。サンプルを2種のセルロース結合色素、Calcofluorの白とコンゴ赤で染色しました。色素の放出光の励起と花粉粒の自己蛍光を捉えるために、405、488、561nmのレーザー線を使いました。
この画像を作成するために使用した花のサンプルはどのようにして見つけましたか?
そこはとても簡単でした。キャンパスの池の周りを昼食後に散歩したとき、花の芽を摘んだのです。
この画像を作成する際、何か困難がありましたか?
サンプル準備に用いる技法には、寒天包埋、ビブラトームスライシング、有機溶媒での透明化などがあり、私はよく熟知しています。幸いにも、ちょうど発育の段階で芽を摘みました。花粉粒はほぼ完全に発育していたものの、まだ詰まって結び付いていたのです。サンプルの完全性を保つことを一番気にかけました。小花を埋め込んだ寒天ブロックをスライスするために使うブレードの振動で、花粉がすべて失われてしまう可能性が大きかったものですから。
この画像を応募作品に選んだ理由は何ですか?
この画像は、ほとんどの人にとってありふれた花の美しさが、肉眼では確認できないところまで拡大できる、ということを表現していると私は思うのです。
この画像からどんなインスピレーションが得られましたか?
これまで述べてきた見解は、すべての生物学でも当てはまるものだと思います。自然の形やデザインに備わっている美は、フラクタル的な方法でもほぼそうですが、非常にさまざまなスケールで現れます。近寄ったり拡大したりするにつれ、その形は慣れ親しんだものではなくなり、より抽象的で、よその星のもののようで、混乱を招くほどにもなります。この種の混乱が、認識に関する感動になる可能性があります。それが学びにつながることがあるのです。このいわゆる「最適な混乱」がある程度の不安定感を引き起こします。各自の知識における認識のギャップを伴いやって来る、精神上のかゆみとなります。しかし、そのギャップを埋める情報が見つけることで、きれいに消えてしまう可能性があるのです。
Igor
Siwanowicz博士は、日常的に顕微鏡の下でアートを創造していく新しい発見や新しい方法を探しながら、自分の趣味、熱意、仕事を結び付けることができて、信じられないほど幸運だと語っている。
あなたが初めて顕微鏡の使い方を習ったのはいつですか?
私のバックグラウンドは、生化学と分子生物学にあります。博士課程では、NMRとX線結晶学を用いて、原子レベルでのタンパク質間の相互作用を研究していました。ただ、より広い視野を見失っている状態だと感じました。17年ほど前、自分の研究分野を、より興味に合わせ込んだものに変える決心をしました。それで、神経生物学ラボに加わり、ショウジョウバエをモデル生物として記憶の形成、統合、および検索を研究しました。最終的には、ハワード・ヒューズ医療研究所(HHMI)のJanelia研究キャンパスに移った後、無脊椎動物の生体構造と顕微鏡の専門家として、非常に独自の得意分野を形成しました。
顕微鏡を使ってアートを作ろう、と最初に思いついたきっかけは何でしたか?
幼い頃に見た絵本が、このことにものすごく大きな役割を果たしました。読み方を学ぶ前でさえ、それらをめくって見ていました。それが、エルンスト・ヘッケルの作品と出会った最初です。彼のArtforms
from
Natureは、あらゆる種類の生命の形を高精細なリソグラフで、すばらしいコレクションに示したもので、科学のアプローチとアートの才能が見事に融合した例です。私の最も影響を受けたインスピレーションの1つになっています。
アート作品を作るために顕微鏡を初めて使ったのはいつでしたか?
私が神経生物学に移ったすぐ後ですから、16年前頃でしょうか、共焦点顕微鏡を使い、遊び半分で最初のデータセットをまとめたのでした。
カタツムリの舌(共焦点スタックに深さを色でコード付けした投影画像)。画像作成者:Igor Siwanowicz博士。
顕微鏡のどんなところに魅力を感じますか?
顕微鏡は、マクロ写真撮影をすっかり補完しますし、20数年間私が取り組んできたもの、そして、自然の形に関してより親密な視点をも与えてくれるものです。
原動力はどこから得ているのでしょうか?
生物学の事柄での好奇心や興味は、実際の仕事について考える遥かに前、覚えてもいない遥かに前から来たものです。私の場合、両親ともに生物学者でしたから、自然と養育環境どちらも寄与していましたね。
ご職業は何ですか?
私は、HHMI Janelia研究キャンパスのリサーチサイエンティストで、Project Technical
Resourcesグループのメンバーです。私たちは、当研究機関で他のチームに専門化した支援を提供しています。現在はほとんど、3D生体構造のデータ処理を行っています。とはいえ時々、仕事関連の準備や共焦点顕微鏡でのイメージングもまだ行っています。
2020年のロックダウンの間には、Blenderというフリーのオープンソース3D製作パッケージを少し学んで、3Dモデリングと3Dアニメーションの技法も使えるようにしました。この新しいスキルには、職場の内外両方での需要のあることが判明しました。私たちは、共焦点またはライトシートの光学顕微鏡の出力として3Dデータセットをたくさん生成しています。マイクロコンピュータトモグラフィー(µCT)とFIB-SEMトモグラフィーです。このデータは簡単に、3Dメッシュに変換でき、さらに処理やレンダリングを行うために、Blenderにインポートできます。そのアプローチを用いて、幼生ゼブラダニオ、ショウジョウバエ、ハチ、ネズミなどの生体構造モデルを構築しているところです。
ご自身のイメージングの専門的職業で、ご自身のアート作品との関わりはありますか?
私の専門的興味と個人的興味の間には、かなりの重なりがありますね。最近は相当収束しているといっていいでしょうか、それがベストシナリオになる可能性があるんです。また最近、無脊椎動物の生体構造の破片を楽しみのためだけに撮像する、ある手法やプロトコルを開発しましたが、自分の仕事にとても役立つことが判明しました。毎週末はほとんど、仕事以外のイメージングをしています。
現在取り組まれている、専門分野と芸術的分野の両方について教えていただけますか?
この頃は、ショウジョウバエの生体構造的に正確な3D筋骨格モデルを作り、機械的知覚剛毛をすべて完全にすることに焦点を当てています(そういう剛毛がたくさんあるのです、本当です!)。先週末には、レッサーノットウィードの花の組織、柱頭上で発育中の花粉粒をつけている雌しべですが、それをイメージングしていました。
マルハナバチの写真のようにリアルな3Dモデル。撮影者:Igor Siwanowicz。
Evident Scientificとオリンパス顕微鏡について、どのような経験をお持ちですか?
まさに最初となる「芸術家気取り」の顕微鏡画像を生成したのは、オリンパスFV1000スコープでした。そのうちの1つの画像で、 オリンパスバイオスケープのコンテストに優勝したのでした。長い話になるのですが、それがなければ、私がJaneliaに今いることは、まずなかったでしょう。ですから、答えはイエスです。エビデントとオリンパス、そして御社のバイオスケープとイメージング・オブ・ザ・イヤーの両コンテストとの関係は、とても有益なものです。私は、自然の美の現れをすべて、より広く一般の方々宛てに届けることに、とてつもなく大きな価値を経験しています。御社のコンテストの画像が、興味に火をつけ、畏敬と驚嘆という感情、これは人類の経験において心が生き生きとしている状態ですが、それを喚起していくことを望みます。