MTFグラフは、異なる対物レンズの性能を比較する場合に、定量的で標準化された方法として使用できます。そのため、光学装置設計において強力な測定ツールとなっています。
なじみのない方のために説明すると、MTFは変調伝達関数を意味します。このパラメーターでは、空間周波数(解像度)を使用して、レンズがサンプルのコントラストを画像に伝える能力を測定します。空間周波数は、ミリメートルあたりのラインのペア(1本の黒いラインと1本の白いライン)の数(lp/mm)を表します。例として図1をご覧ください。
品質の高い光学系は、高い周波数(高い解像度)で高いコントラストを伝えます。周波数(解像度)が高くても、コントラストが低いとサンプルの細部まではっきりとは見えにくくなります。これは、画質にとってコントラストが解像度とまったく同じように重要であることを意味します。MTFグラフでは、レンズのコントラストが周波数に対してプロットされます。グラフの曲線を見れば、レンズ性能の違いを比較できます。
図1:さまざまな空間周波数(解像度)の例。
エンジニアは設計工程でレンズメーカーにMTFグラフを要求します。例えば、当社に最近寄せられた光学MTFグラフの要求は、細胞分析装置、DNAシーケンサー、スライドスキャナー、産業検査機器の設計を手掛けるエンジニアの方々のものが多くなっています。お客様に最高の光学系を設計していただけるように、このブログではMTFグラフのさまざまな使用法について説明します。
MTFグラフの例(および読み取り方)
下の図2はMTFグラフの例を示しています。視野は固定で、横軸は空間周波数、縦軸はコントラストを示します。グラフから、このレンズで50%のコントラストを得られるのは、空間周波数が30 lp/mmの場合であることがわかります。
図2:コントラスト(MTF)対空間周波数を示すMTFグラフの例。
MTFグラフにはサジタル方向とメリジオナル方向の曲線が示される場合もあります。これらの曲線は、画像の中心からの距離に応じたコントラストの変化を表します。
- サジタル:放射方向(画像の中心から端へ)の性能
- メリジオナル:同心円方向(円形)の性能
通常、ほとんどのレンズでは、視野の端よりも中心でコントラストが高くなります。サジタル方向とメリジオナル方向のコントラストは、軸外収差(さまざまな視野点での光学誤差)の影響によって変動します。コマや非点収差がその例です。
一般に、サジタルとメリジオナルが同様の性質を持っていると、より均質な画像が生成されます。MTFグラフ上でサジタル曲線とメリジオナル曲線が互いに近いほど、X軸(横方向)とY軸(縦方向)両方の画像性能が均質になります。両曲線が離れていると、収差のある不均質な画像になります。より均質な画像性能を得るには、両曲線が近付くのが理想的です。
光学系の設計におけるMTFグラフの5つの使用法
エンジニアが光学装置を設計する際には、すべての要件を満たす最終システムを構築するために、数多くの部品を最適化する必要があります。例えば、顕微鏡ベースのイメージングシステムの光学系には、対物レンズ、結像レンズ、およびカメラアダプターが含まれます。MTFグラフは、システム全体で使用される対物レンズやその他の光学系の性能を評価する場合に、客観的な方法として使用できます。
1. 理想的な回折限界に対して光学性能を比較する
回折限界は、光学系の解像度の絶対限界を示します。回折限界値をレンズ系のMTFと比較することで、レンズ系の性能が理論値にどれだけ近いかをチェックできます。
MTFグラフでは、理想的な光学系と構築された光学系の違いを一目で確認できます。例えば、2つの光学系のMTFを比較するとします(図3)。システム1はシステム2より回折限界値に近いので、性能が高いことがわかります。
図3:2つの光学系のMTF曲線。対照比較によって、どちらのシステムが回折限界に近いかがわかります。
2. さまざまな対物レンズの性能を比較する
MTFを使用すれば、特定の空間周波数において、高いコントラストを持つレンズがどれかわかるので、異なる対物レンズの性能を比較する場合によい指標になります。前述のように、コントラストが高いほど画像性能はよくなります。MTFグラフでは、どのMTF曲線が高いかを目で確認できるので、対物レンズのコントラストの比較が簡単になります。
以下に示すMTFグラフ(図4)を例にとってみましょう。対物レンズAは、対物レンズBより曲線が高いことから、MTF性能が優れていることがわかります。この視覚情報は、システム設計に合った対物レンズを選択する際に役立ちます。
図4:2つの異なる対物レンズのMTF曲線。対物レンズAは対物レンズBより曲線が高く、光学性能が優れていることを示しています。
3. 視野内にある異なる焦点位置のMTFを判別する
MTFグラフでは、軸上および軸外の焦点位置のMTFの差が示されることから、対物レンズがピンボケの影響を受けやすいかどうかもわかります。
- 軸上の焦点位置:はっきりピントの合った画像を得られる視野の中心
- 軸外の焦点位置:視野の端の位置
例として下の図5をご覧ください。軸上の焦点位置のMTFは60%であり、軸外の焦点位置のMTFは40%になっています。軸外のMTFの方が20%低いことがわかります。許容値は用途によって異なります。値を受け入れられない場合は、設計の変更か別の光学部品への切り替えを検討します。
ピントの合った画像を得るには、軸外位置のMTF曲線が軸上位置のMTF曲線にできるだけ近いのが理想的です。(下の図5のように)軸上と軸外の曲線の隔たりは、収差によるピンボケの問題を示します。
図5:視野内の異なる焦点位置(曲線のピーク)のMTF曲線。軸上と軸外の曲線の隔たりは、収差によるピンボケの問題を示します。
4. センサーの理想像高を判別する
像高とは、画像の中心から端までの距離です。MTFグラフを使用すると、光学系のセンサー位置における理想像高を視覚的に判別できます。軸上と軸外のセンサー位置の性能の差を確認することもできます。
下の図6に例を示します。センサーの中心と軸外位置のMTFをご覧ください。中心位置のMTFは70%です。中心からメリジオナル方向に5 mm位置のMTFは50%です。通常、中心から離れるほど、軸外収差の影響でMTFが低下します。この例で、メリジオナル方向のMTFは、中心から10 mmの位置で20%になります。最適な性能を得るため、システムの構築時には用途で求められる像高のMTFを確認してください。
図6:さまざまな像高のMTFグラフ。中心から離れるにつれてMTFが低下します。
5. システムに含まれるさまざまな光学部品のMTFを確認する
MTFグラフのもう一つの便利な活用法は、システムに含まれるさまざまな光学部品(対物レンズや結像レンズなど)のMTFの確認です。これによって、光学部品のいずれかが原因でMTFが低下しているかどうかを確認できます。この情報があれば、システムに必要な光学性能を発揮するように部品を調整できます。例えば、対物レンズ単体、結像レンズ単体、対物レンズと結像レンズを組み合わせた光学系、それぞれのMTFを計算できます。
図7:対物レンズ(左)と結像レンズ(右)のMTFグラフ。
図8:対物レンズと結像レンズを組み合わせた光学性能を示すMTFグラフ
MTFグラフの考慮事項と参考資料
MTFグラフの使用法は、最終的に装置の本来の目的によって決まります。例えば、MTFは単一波長(単色光)または白色光に対して計算できます。蛍光または多光子イメージングのレーザーベースの用途では、単一波長のMTFデータが必要になります。汎用イメージング用途では、白色光のMTFデータが必要になります。
MTFに関して、もう一つ考慮すべき重要なものはセンサーです。MTFを使用して光学系を評価する場合は、最適な画素ピッチとナイキスト周波数を持つセンサーを選択する必要があります。詳細は、ホワイトペーパー顕微鏡カメラを選ぶためのチェックポイントを参照してください。
MTFグラフとデータについてご質問はありませんか?お気軽に当社にお問い合わせください。
注記:Evidentは、NDA(秘密保持契約)の条件下でMTFデータを開示します。このデータを使用して、より高い光学性能を持つ光学系を構築できます。