抗体依存性細胞障害(ADCC)は抗体医薬の作用機序の1つであり、抗体が結合した標的細胞(癌細胞等)に対して、当該抗体を介してエフェクタ細胞(NK細胞、単球等)が作用し、貪食やパーフォリンやグランザイムBなどで攻撃することによって、標的細胞を破壊する現象です。EGFRを標的とした治療抗体セツキシマブ(Alexa Fluor647で標識)が結合したヒト大腸癌由来株化細胞HT-29を三次元培養したものと、機能的Fcγ受容体とZsGreen蛍光タンパク質を発現させたNK細胞株KHYG-1を共に培養し、共焦点レーザー顕微鏡FV3000を使用して抗体依存性細胞障害(ADCC)の様子を三次元的にイメージング、NK細胞ががん細胞を攻撃する様子を48時間観察することが出来ました。
三次元培養された細胞塊であるスフェロイドは、その厚みのため励起光が内部まで届きにくく、蛍光観察することは簡単ではありません。深部画像を取得するためにはレーザー強度が必要ですが、細胞へのダメージも生じてしまいます。そこで、オリンパス独自に開発した分光システム「TruSpectral」により、微弱な蛍光でも明るく取得できるFV3000を使用してイメージングを行いました。更に、より深部を高精細に観察するため、シリコーンオイル浸対物レンズも使用したところ、48時間に渡りスフェロイドの三次元タイムラプスを明るく鮮明に撮影することに成功、NK細胞の攻撃によりHT-29細胞が死んでいくことでスフェロイドの形状が崩れる様子が観察できました。
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図1:スフェロイド内腫瘍細胞をNK細胞が攻撃する様子を三次元的に48時間観察した動画
抗ヒトEGFR抗体セツキシマブが結合したHT-29細胞のスフェロイドに、機能的Fcγ受容体とZsGreen蛍光タンパク質を発現させたNK細胞株KHYG-1(ZsGreen)を共に培養。セツキシマブはAlexa Fluor647で標識してされているためHT-29細胞の表面は青色を示す。Propidium Iodide(PI)存在下で培養を行い、HT-29細胞をNK細胞が攻撃する様子を3次元で48時間観察。PIが細胞核を赤く染めることで細胞の生死の判別の指標とした。
撮影条件
対物レンズ:シリコーンオイル浸対物レンズUPLSAPO60XS
顕微鏡:FLUOVIEW FV3000
レーザー:488nm(ZsGreen、緑) , 561nm(PI、赤), 640nm(Alexa Fluor 647、青)
抗体医薬の有効性評価のような実験には、細胞の長時間観察が必要不可欠です。温度変化等の外部環境変化によるフォーカスのずれを防ぎながらスフェロイド状のがん細胞に対してNK細胞がどのように作用しているのかをより正確に観察するため、ZドリフトコンペンセーターIX3-ZDC2を使用し、タイムラプスイメージングを行いました。これにより、フォーカスのずれに影響されることなく長時間タイムラプス画像の取得ができ、NK細胞が腫瘍塊に侵入する際、その形状を活発に変化させながら攻撃していることが確認できました。
9h | 11h | 17h | 22h | 24h |
図2:スフェロイド内腫瘍細胞をNK細胞が攻撃する様子を三次元的にタイムラプス観察(27μm厚のYZ断面をプロジェクションした画像)
抗ヒトEGFR抗体セツキシマブ(Alexa647:青)によりHT-29細胞表面が青を示す。NK細胞株KHYG-1(ZsGreen:緑)が形状を変化させながら、がん細胞を攻撃し死滅(PI:赤、細胞死)させる様子が確認できた。
オリンパス独自に開発した分光システム「TruSpectral」を搭載。反射型回折格子に比べ40%以上効率の良い透過型回折格子(VPH: Volume Phase Holographic diffraction grating)により、微弱な蛍光でも美しい画像が取得可能です。
IX3-ZDC2は、光毒性の少ないレーザークラス1のIRレーザーを⽤いて容器底⾯を検出し、ピントを合わせます。ワンショットAFは、厚みのあるサンプルに対して任意にフォーカス位置を設定でき、Zスタックを効率よく取得できます。
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⽣体標本と屈折率の近いシリコーンオイルを使⽤することで、⻑時間ゆがみのない鮮明な三次元画像の取得が可能です。また、生体に近い37°C環境下でも乾燥や固着しないため、長時間の観察に適しています。
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三嶋 雄二先生 | 近年、がん研究での蛍光イメージングの需要が益々高まっており、特にスフェロイド細胞などで立体的に抗体医薬の有効性評価をする実験も増えてきました。スフェロイドはその厚みのある形状から蛍光観察が大変難しいサンプルですが、FV3000を使用することで、スフェロイドのがん細胞を48時間に渡って観察することができました。ADCCを三次元的にイメージングすることで、生細胞・死細胞・エフェクタ細胞(NK細胞)を正確に計測することができ、抗体医薬の治療有効性評価に大変有効であると感じました。 |
アプリケーションノート制作にご協力賜りました先生:
公益財団法人がん研究会がん化学療法センター臨床部 三嶋雄二先生
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