理化学研究所 脳科学総合研究センター 細胞機能探索技術開発チーム 濱 裕博士、宮脇 敦史博士らの研究チームが2011年8月に英国科学誌「Nature Neuroscience」*で生体標本を透明化する技術“Scale”が研究論文として発表されて以降、SeeDBやClarity、ScaleS、植物の1つであるシロイヌナズナを透明化するClear Seeのような標本透明化技術が次々と開発されてきました。これら標本透明化技術と二光子顕微鏡を用いることで最大8mmまでの深部観察が可能になりました。
様々な透明化技術が開発される中でも二光子顕微鏡を使用できる施設は限られているため現在でも汎用的な共焦点レーザ顕微鏡で透明化標本を観察したいというニーズが非常に高く、実際に共焦点顕微鏡で透明化標本を観察した実験が数多くの論文中のメソッドで紹介されています。
共焦点顕微鏡で透明化標本をより深部へ観察するのには使用する対物レンズの選定が重要になりますが、オリンパスでは標本透明標本の深部観察において高いパフォーマンスを発揮するシリコーン浸対物レンズを豊富にラインナップしています。
ここではシリコーン浸対物レンズを用いて共焦点レーザー走査型顕微鏡FVシリーズで透明化標本を深部・高精細に観察した一例をご紹介します。
*Hama H, Kurokawa H, Kawano H, Ando R, Shimogori T, Noda H, Fukami K, Sakaue-Sawano A, and Miyawaki A: "Scale: a chemical approach for fluorescence imaging and reconstruction of transparent mouse brain.", Nat Neurosci (2011)
オリンパスが販売する標本透明化液SCALEVIEW-A2はホルマリンで固定された生体試料における光の吸収や蛍光を損なうことなく、SCALEVIEW-A2溶液に浸漬するだけで哺乳類動物の脳が透明になります。脳試料を切らなくても蛍光タンパク質で標識された構造を表面から深部に至るまで詳細に観察することができます。
その標本透明化液SCALEVIE-A2で透明化処理したマウス脳切片を共焦点レーザ走査型顕微鏡FVシリーズを用いて60倍油浸対物レンズと60倍シリコーン浸対物レンズUPLASAPO60XS2で撮り比べました。
X-Z | X-Y | ||
UPLASAPO60XO (NA: 1.35, W.D.: 0.15mm) | |||
Z=5μm | Z=35μm, Scale bar: 5μm | ||
| |||
Z=5μm | Z=35μm |
60倍油浸対物レンズと60倍シリコーン浸対物レンズUPLASAPO60XS2で撮影した透明化マウス大脳新皮質切片の深部観察比較画像
(蛍光抗体染色:VGluT1(緑)/VGluT2(赤)/MAP2(青))
表層からZ方向5μmのXY画像については油浸対物レンズとシリコーン浸対物レンズUPLASAPO60XS2ともに明るい蛍光画像が取得できていますがZ方向35μmでは油浸対物レンズに比べシリコーン浸対物レンズUPLASAPO60XS2で撮影したXY画像の方が明らかに明るく高精細に観察できています。
このZ方向35μmでのYX画像の明るさの差は、それぞれの対物レンズのオイルと標本透明化液SCALEVIEW-A2(ne≒1.38)との屈折率の差で発生する球面収差の違いによるものです。
油浸対物レンズのオイル屈折率(ne≒1.52)は標本透明化液SCALEVIEW-A2屈折率(ne≒1.38)と大きな差があり、そこから生じる球面収差の影響で、結果、画像が暗くなってしまいました。一方、60倍シリコーン浸対物レンズUPLASAPO60XS2のシリコーンオイル屈折率(ne≒1.40)は標本透明化液SCALEVIEW-A2屈折率(ne≒1.38)と接近しているため屈折率ミスマッチで起きる球面収差が抑えられ明るい画像を取得することができました。
またシリコーン浸対物レンズは水浸対物レンズと比べても開口数が大きいため透明化標本の深部において水浸対物レンズよりも高精細な画像を取得することができます。
このように透明化標本の深部観察においてシリコーン浸対物レンズは高いパフォーマンスを発揮します。
画像データのご提供;
内ヶ島 基政助教、渡辺 雅彦教授
北海道大学大学院医学研究科 解剖発生学分野
撮影条件;
標本透明化液SCALEVIE-A2
共焦点レーザ走査型顕微鏡 FV1200
60倍シリコーン浸対物レンズ UPLASAPO60XS2 (NA: 1.30, W.D.: 0.30mm)
理化学研究所脳科学総合研究センター 細胞機能探索技術開発チーム 阪上-沢野 朝子博士、宮脇 敦史博士らが2013年10月に米国科学誌「Development」で研究成果として発表した論文中では、透明化技術ScaleU2で透明化処理した標本を40倍シリコーン浸対物レンズUPLASAPO40XSと走査型レーザ顕微鏡FVシリーズを用いて深部観察した実験がメソッドでご紹介されました。
その一例として細胞周期インディケータFucci(Fluorescent ubiquitination-based cell cycle indicator) を発現するTGマウスの胎盤(E10.5)をScaleU2で透明化処理した後にアガロースゲルで固定し、胎盤内部に位置する細胞*Figure1を40倍シリコーン浸対物レンズUPLSAPO40XSを用いて倒立型の共焦点レーザ走査型顕微鏡FVシリーズで観察しました。透明化技術ScaleU2を用いることで胎盤を組織切片することなく、そのままの状態で内部に位置する細胞を高精細に観察することができました*Figure2 。またシリコーン浸対物レンズは色収差が少ない設計のためFucci(S/G2/M-緑、G1-赤)と核(DAPI-青)のコローカリゼーションも正確に観察できました*Figure3。
Figure 1: マウス胎盤(E10.5)内部の細胞の観察 概略図
Figure 2: マウス胎盤(E10.5)内部の細胞の連続断層像
Figure 3: マージ画像(Z stack)
画像データのご提供:
阪上-沢野 朝子先生、宮脇 敦史先生
理化学研究所脳科学総合研究センター 細胞機能探索技術開発チーム
撮影条件;
標本透明化技術ScaleU2
共焦点レーザ走査型顕微鏡 FV1000
40倍シリコーン浸対物レンズ UPLASAPO40XS (NA: 1.25, W.D.: 0.30mm)
参照論文;
Development. 2013 Nov;140(22):4624-32. doi: 10.1242/dev.099226. Epub 2013 Oct 23.
オリンパスはより深部・高精細の観察を実現するシリコーン浸対物レンズUPLASAPO 30XS/40XS/60XS2/100XSをラインナップしています。シリコーンオイル(ne≒1.40)の光の屈折率はオイルや水よりも生体(ne≒1.38)に近いので、屈折率ミスマッチで起きる球面収差を抑えて、生体内の深いところの高解像観察が可能になります。
またシリコーンオイルは乾いたり固まったりせず、浸液補充の手間が必要ありません。シリコーン浸対物レンズは、電動倒立型リサーチ顕微鏡IXシリーズのZドリフトコンペンセータIX-ZDCにも対応し、温度変化や薬液投与に影響されることなく、フォーカスを維持したまま、長時間安定した高解像度での3Dイメージングを実現します。
オリンパスが販売する標本透明化溶液SCALEVIEW-A2(ne≒1.38)とシリコーンオイル(ne≒1.40)の屈折率は接近しており、高NAを実現したシリコーン浸対物レンズは透明化標本の観察においても最高のパフォーマンスを発揮します。
作動距離0.2mmをもつ100倍シリコーン浸対物レンズUPLSAPO100XSは約120nmのXY分解能を実現する超解像FV-OSR(Olympus Super Resolution)イメージングにおいて数十マイクロメートル深部の細胞内構造の超解像観察が可能です。
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