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アプリケーション

FLUOVIEW FV3000を用いたマーモセット脳の大脳皮質‐視床間における神経構造の観察


前頭前皮質(PFC)は、大脳皮質の中でもヒトで特に大きく肥大した高度な認知・実行機能の場であり、統合失調症などの精神疾患とも関係が深いことが知られています。最近では、マウスのPFCも盛んに研究が行われるようになってきましたが、霊長類と違って、マウスには前頭顆粒皮質に対応する領域は存在しません。マウスとヒトをつなぐという意味で、霊長類モデルの研究は大変重要な位置にあり、私たちの研究グループは南米原産の小型サル、マーモセットを使った大脳皮質の機能的解析の研究を行っています。

今回の実験では、マーモセットの視床をとりまく抑制性ニューロンの細胞群である視床網様核(TRN: Thalamic Reticular Nucleus)とPFCの関係に注目しました。TRNは、大脳皮質-視床間の情報伝達を制御するゲートのような役割を果たしますが、PFCから視床に向かう神経軸索が、TRNでどういう形態を示すのかを詳しく観察しました。
 

図1:前頭前野から視床網様核を通り視床へ入る軸索の図

図1:前頭前野から視床網様核を通り視床へ入る軸索の図
視床網様核は視床へのゲート機能を果たしている。
 

マクロ画像からミクロ画像まで簡単ワークフローでイメージング

PFCから発した神経軸索は、太いバンドルとして内包と呼ばれる神経経路を通過し、TRNの前部を通って視床に侵入することがわかっていますが、TRNとの結合領域付近は、内包からの神経軸索バンドルが分岐したり、向きを変えたりと複雑な形態をしているため、TRNの正確な同定が重要です。今回の実験では、PV(パルバルブミン)をマーカーとして用い、TRNを同定しました。

観察に使ったのは、低倍撮像と高倍撮像をシームレスにつなぐことができるマップ機能を備えた共焦点顕微鏡FV3000です。このマップ機能を活用し、低倍でPV陽性細胞の周辺を通過するPFC神経軸索の大まかな形状を観察しつつ、高倍の共焦点撮像で、ブートン様の神経終末の観察を行いました。

高倍の観察には、サンプルのより深部までを高解像に観察可能なシリコーンオイル浸対物レンズを用いて観察を行いました。これにより、低倍観察では太い神経線維が目立ち、ただ通過しているだけのように見えていましたが、40倍シリコーンオイル浸対物レンズではPV陽性細胞の周辺を通過している線維は細かく分岐し、ブートン様の粒状の構造を無数に展開している様子が確認できました。(図2)
 

図2:マップ機能を使用したマーモセット脳のPFCから視床へ入る神経軸索とTRNとの結合領域の観察

図2:マップ機能を使用したマーモセット脳のPFCから視床へ入る神経軸索とTRNとの結合領域の観察
TRNニューロンは、PV陽性の抑制性ニューロンから構成されているため、抗体(赤)で同定が可能。緑は大脳皮質からの軸索終末、シアンは核を示す。
 

【撮影条件】
顕微鏡:FV3000
レーザー:405nm(DAPI、シアン)、488nm(GFP、緑)、561nm(パルバルブミン、赤)

a. 対物レンズ: PLAPON1.25X、Stitching: 3×3、スケールバー:3000μm
b. 対物レンズ: UPLXAPO10X、Stitching: 2×2、スケールバー:300μm
c. 対物レンズ: UPLSAPO40XS、Stitching: 2×2、73 slicesスケールバー:30μm(緑・赤のみ表示)
 

シリコーンオイル浸対物レンズでマーモセット脳の神経線維の微細構造を高精細に三次元観察

その後、高倍の100倍シリコーンオイル浸対物レンズを用いてZスタック画像を撮影し、さらに相互関係を詳細に確認するため、三次元再構築を行いました。これにより、TRNニューロン周囲の神経線維の微細なブートン様の粒上構造を高精細に確認することができました。

動画:マーモセット脳のPFCから視床へ入る神経軸索とTRNとの結合領域の高倍3D観察


【撮影条件】
顕微鏡:FV3000
レーザー:488nm(GFP、緑)、561nm(PV、赤)
対物レンズ: UPLSAPO100XS
 

渡我部先生からのコメント

渡我部昭哉先生
 

本実験では、低倍対物レンズから高倍対物レンズへと切り替えながら画像取得をする必要がありましたが、FV3000のマップ機能は、低倍での全体像の確認から高倍での微細な構造把握までをスムーズに行うことができました。また標本深部まで高精細に観察できるシリコーンオイル浸対物レンズを使用することで、微細なブートン様の神経終末の形状を高精細に観察することができました。

アプリケーションノート制作にご協力賜りました先生:
渡我部昭哉先生
理化学研究所 脳科学総合研究センター 高次脳機能分子解析チーム
 


研究の背景

今回の研究は、「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明(革新脳)」プロジェクトの一環として行われました。本プロジェクトでは、霊長類モデルの神経回路を精査することにより、ヒトの精神・神経疾患の理解を深め、ひいては克服することを目指しています。渡我部先生の研究グループは、マーモセットの脳構造マップの作成を担当、特に前頭前皮質(PFC)の結合について詳細に調べています。
 

関連論文: 
Okano H, Sasaki E, Yamamori T, Iriki A, Shimogori T, Yamaguchi Y, Kasai K, Miyawaki A. “Brain/MINDS: .” Neuron., 2016 Nov. 2;92(3):582-590. doi:10.1016/j.neuron.2016.10.018.
 

実験を可能にしたFV3000の技術

マクロ~ミクロ観察

FV3000のマクロ〜ミクロ観察機能を使⽤することで、組織全体の構造の把握から細胞の微細構造観察までを簡単なワークフローで⾏うことが可能になります。

マクロ~ミクロ観察


シリコーンオイル浸対物レンズを用いて厚みのある組織切片の明るい画像取得を実現

オリンパスでは標本透明標本の深部観察において高いパフォーマンスを発揮するシリコーンオイル浸対物レンズを豊富にラインナップしています。シリコーンオイルの屈折率(ne約1.40)は生組織の屈折率(ne約1.38)とほぼ同じであるため、屈折率の差によって生じる球面収差の影響を受けにくく、生組織の3D構造を高解像度で正確に撮影することができます。
 


 

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