3次元がんスフェロイドを使用して薬剤の性能を評価することは重要です。なぜなら、スフェロイドはがんの複雑な生体外微小環境を再現するからです。これにより、研究者は、腫瘍の本来の環境により近いパラメーターのもとで、薬剤の有効性を評価することができます。
我々は、このアプリケーションへの3次元解析ソフトウェアNoviSightの適用性を検証するため、A549細胞とHeLa細胞のがんスフェロイドを共培養しました。続いて、NoviSightソフトウェアを使用して、これらの細胞に対する薬剤処理の効果を3次元的に解析しました。本研究は、対象物に含まれる情報に基づいて対象物を分類し、それぞれのパラメーターを解析して薬剤の有効性を評価するために、NoviSightソフトウェアをうまく活用できることを実証しました。
A549ヒト肺細胞とHeLa子宮頸がん細胞(核内でEGFP発現)をさまざまな比率で混合しました。EGFPシグナルの強度に基づいて、HeLa細胞の比率が変わることがわかります(図1※1)。コーニング®384ウェル丸底プレートに(1ウェル当たりの細胞数が200個になるように)細胞を播種して、10% FBSを添加したDMEMで3日間培養しました。プレートを弱く遠心分離して、ウェル内の気泡を除去しました。
A549: HeLa-EGFPnls
100:0 | 75:25 | 50:50 | 25:75 | 0:100 |
図1. 作製された共培養がんスフェロイド※1
スフェロイド内のA549細胞とHeLa細胞が1:1の比率になるように共培養スフェロイドを作成し、3.7 nM~3.75 μMの濃度のスタウロスポリン(STS)で、サンプルを5時間処理しました。膜透過性の差を利用して、すべての核を10 μMのHoechst 33342(同仁化学研究所)で染色し、死細胞の核を1 μMのTO-PRO3(Thermo Fisher Scientific®)で染色することによって、細胞生存率を測定しました。続いて、1X PBSでサンプルを3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドでサンプルを4°C(39.2°F)で一晩固定しました。イメージングの前に、SCALEVIEW-S4(富士フイルム和光純薬)組織透明化試薬でスフェロイドを室温で一晩処理しました。
A Line スーパーアポクロマート対物レンズ(UPLSAPO30XS)を取り付けたFLUOVIEW®共焦点走査型レーザー顕微鏡FV3000を使用して、スフェロイドの蛍光画像を取得しました。高品質画像と3次元形態が得られるよう、この対物レンズの補正環を調整して浸液の屈折率を一致させました。それらの画像が3次元細胞解析ソフトウェアNoviSightに取り込まれて、3次元で再構築されました。NoviSightソフトウェアは、核などの対象物を認識して、対象物内のシグナルのさまざまな解析を行うことができます。
スフェロイドを透明化して共焦点走査型レーザー顕微鏡FV3000でイメージングを行うことにより、共培養がんスフェロイドの深部を画像化することができました。スタウロスポリン処理により、死細胞の数が用量依存的に増加しました(図2※1)。3次元の塊の中でどの細胞が死滅しているのか、そして、死細胞はいくつあるのかを確認するためには、3次元解析が必要です。
図2. 共培養スフェロイドにおける薬剤反応性※1
Hoechst 33342のシグナルを利用して、核を認識することができました。EGFPシグナルの有無に基づいて、すべての細胞がEGFP陽性(HeLa細胞)とEGFP陰性(A549細胞)という2つのグループに分類されました。これら2つのグループの細胞は、さらに、死細胞シグナル(TO-PRO3、赤)の有無に基づいて、全部で4つのグループに分類されました(図3※1)。A549細胞とHeLa細胞の両方について、全細胞に対する生細胞の割合(%)が算出されてプロットされました(図4)。その結果から、HeLa細胞はA549細胞よりもスタウロスポリンへの感受性が高いことが分かりました。
NoviSightソフトウェアを使用して、個々の共培養がんスフェロイドに含まれている細胞の種類を分類し、細胞の種類に固有の薬剤反応性を解析することができました。
ギャラリー | ||||
ヘキスト | + | + | +※2 | +※2 |
EGFP | - | - | + | + |
TO-PRO-3 | - | + | - | + |
図3. NoviSightソフトウェアは、シグナルに基づいて細胞を4つのグループに分類することができます。※1
※2 右側の2つのギャラリーにはHoechst 33342シグナルが表示されていません。
スタウロスポリン濃度
図4. A549細胞とHeLa細胞の薬剤反応性の違い
3次元的に画像が取得されるため、より複雑な空間解析を行うことができます。これにより、がんなどの異種組織における細胞挙動を解析することができます。NoviSightソフトウェアは、解析対象領域を設定することができます。我々は、各スフェロイドの中心部と周辺部の両方を解析するようソフトウェアを設定して、8つのグループを作りました(図5)。続いて、これらの領域におけるポピュレーション解析を行いました(図6)。この方法により、共培養がんスフェロイドにおける薬効を空間的に解析することができます。
図5. 空間解析の模式図
図6. NoviSightソフトウェアは中心部と周辺部の両方を分類することができます。
NoviSightソフトウェアは、死細胞の数をカウントするだけでなく、薬剤の空間的な有効性を解析することもできます。我々は、この機能を実証するため、共培養スフェロイド内のそれぞれの死細胞の空間解析を行いました。中心部と周辺部の細胞数に対するそれぞれの死細胞の割合が算出されました(図7)。この場合、これら2つの領域間に薬効の違いはありませんでした。中心部と周辺部の両方において、死細胞の数が用量依存的に増加しました。
スタウロスポリン濃度
図7. 中心部と周辺部の薬剤反応性の違い
NoviSightソフトウェアとFLUOVIEW®共焦点走査型レーザー顕微鏡FV3000を使用して、共培養がんスフェロイドに含まれている細胞の種類を分類し、細胞の種類に固有の薬剤反応性を解析することができました。共培養物の組み合わせを変えることによって、さまざまながんの微小環境をうまく再現することができ、抗がん剤の効能を評価することができます。
Hiroya Ishihara, Biological Evaluation Technology 2, Research and Development
※1 HeLa細胞は医学研究で最も重要な細胞株の一つで、科学の発展に偉大な貢献をしました。しかし、この細胞の元となったヘンリエッタ・ラックス(Henrietta
Lacks)さんの同意が得られていなかった事実を認識しなければなりません。HeLa細胞の使用は、免疫学や、感染症学、癌研究などにおける重要な発見に貢献しましたが、同時に医学における個人情報保護や倫理についての重要な議論も引き起こしました。
ヘンリエッタ・ラックスさんの生涯と現代医学への貢献における詳細は、以下にアクセスしてご覧ください。
http://henriettalacksfoundation.org/
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