3次元組織モデルは、生体内微小環境を再現できるため、創薬のためによく使われています。PDOは、もともとの患者の薬剤反応性を再現する最も強力なツールの1つです。実際に、PDOの表現型および遺伝子型プロファイリングは、もともとの患者の腫瘍に非常に近いという特徴があることが、最近の研究によって明らかになっています。さらに重要なことは、PDOが80%を超える精度で薬剤反応性を予測できたということです。
我々は、福島がん組織由来培養細胞(F-PDO®)、オリンパスのFLUOVIEW®共焦点走査型レーザー顕微鏡FV3000および3次元解析ソフトウェアNoviSightを使用して、PDOの形態と薬剤分布に関する新しいワークフローを提供します。
細胞を作製するために、3種類の肺F-PDO(RLUN5、RLUN16、RLUN21)を使用しました。RLUN5は腺扁平上皮がん腫瘍から増殖され、RLUN16とRLUN21は扁平上皮がん腫瘍から増殖されたものです。RLUN21は細胞の大きな集塊を形成し、他の2つより細胞質が大きいという特徴があります(図1)。
続いて、F-PDOを遠心分離して回収し、4%パラホルムアルデヒドで一晩固定しました。上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)阻害薬であるアービタックス®とヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)阻害薬であるハーセプチン®をHiLyte Fluor 555(同仁化学研究所)で標識し、F-PDOと共に3時間培養しました。
我々は、Hama他による免疫染色プロトコルを一部変更して実施しました(図2)。固定したF-PDOのそれぞれにKi67抗体(アブカム、16667)を添加して一晩培養し、AbScale溶液(0.33 M尿素および0.2%トリトンX-100)で希釈しました。AbScaleで洗浄した後に、F-PDOに二次抗体を添加して3時間培養し、AbScaleで希釈しました。AbScale洗浄液で1時間洗浄した後に、F-PDOを4%パラホルムアルデヒドで再固定しました。続いて、F-PDOをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液で洗浄してから、透明化試薬ScaleS4とDAPIを使用して一晩培養しました。その後、オリンパスの共焦点走査型レーザー顕微鏡FV3000を使用して、透明化されたF-PDOのイメージングを行いました。
図2 F-PDOの免疫染色と透明化の手順
3次元解析を行うため、10倍または30倍の倍率と2 μmのZピッチを使用して、透明化されたF-PDOの画像を取得しました。
正確な3次元細胞解析を行うには、Zピッチを適切に設定することが重要です。続いて、画像がNoviSightソフトウェアに取り込まれて3次元で再構築されました。NoviSightソフトウェアは、核などの3次元対象物を認識して定量的データに変換することができます。
NoviSightソフトウェアを使用して、複数枚のZ面画像からPDOを定量化することができました。PDOの核を染色することにより、解析ソフトウェアは、構造全体を捉えて単一細胞認識を行うことができました(図3A)。また、ソフトウェアは、認識された個々の対象物をグラフ上に単一のプロットとして加えました。ソフトウェアが個々の核を対象物として認識したときに、我々は、強度が高いKi67のプロットをゲーティングすることによって、グラフ上および3次元でKi67陽性細胞を抽出しました(図3B)。これらの方法を使用して、F-PDOの細胞数、体積、細胞密度、およびKi67陽性細胞率を数値で表しました(図3C)。そして、RLUN21のKi67陽性率が他の2つと比べて低いことが分かりました。また、RLUN21は他よりも細胞質が大きいために細胞密度が低くなった可能性があります。
A | |||
RLUN21原画像 | 核認識 | 核認識ボリューム画像 | RLUN21 |
B | C |
RLUN5 | RLUN16 | RLUN21 | |
細胞数 | 926 (±719) | 294 (±162) | 2595 (±1480) |
体積(ボクセル) | 3.35.E+06 (±3.26.E+06) | 1.08.E+06 (±6.85.E+05) | 1.13.E+07 (±9.12.E+06) |
図3 F-PDOの形態の3次元定量化 |
A. RLUN21の三面の原画像、NoviSightによる3次元核認識(三面およびボリューム画像)、およびNoviSightによる構造認識
B.
Ki67陽性/陰性細胞がKi67の強度によって分類されました。NoviSightソフトウェアは、分類された細胞を「ギャラリー表示」で表示することができます。
C. 分類されたKi67陽性細胞に赤い丸を付けて3次元で表示することができます。
D. F-PDOの定量的データ
HiLyte Fluor 555で標識したアービタックスまたはハーセプチンをそれぞれのF-PDOに添加したところ、アービタックスはRLUN21に表面から均等に結合したのに対し、ハーセプチンはRLUN21に不均等に結合しました。NoviSightソフトウェアの体積認識モジュールが抗体医薬陽性体積率を定量化しました(図4A)。次に、我々は、NoviSightソフトウェアを使用して、結合様式の違いを定量化しました。というのも、ソフトウェアは解析対象領域を変更できるからです。それを行うために2つの対象領域を作成しました。つまり、一定の割合(%)で表面から減少した体積領域と、任意の幅を持った外形体積領域です。そして、それらの体積領域における抗体医薬の蛍光強度を算出しました。アービタックスでは減少した体積と外形体積の間に大きな量的差異があったのに対し、ハーセプチンではあまり差異がなかったことが分かりました。これは、アービタックスがRLUN21の外形領域と強く結合したのに対し、ハーセプチンは偏りなくRLUN21と結合したことを意味します。我々は、この方法で抗体医薬の分布を定量的に示すことができました。
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抗体陽性体積(%)
図4 抗体薬分布の3次元定量化 |
A.
アービタックスまたはハーセプチンを添加したF-PDOの三面の画像、およびNoviSightによる抗体医薬結合体積認識。グラフは全体積における抗体結合体積を示します。
B. NoviSightの領域変更モジュール。NoviSightは、解析対象領域を変更して、限定された領域内の定量的データを提供することができます。
本研究で明らかになったのは、NoviSightソフトウェアが、オリンパスの共焦点走査型レーザー顕微鏡FV3000によって取得された画像を使用して、形態学的および薬理学的にPDOの定量解析を実施できるということです。顕微鏡FV3000の高解像度画像とNoviSightソフトウェアの高い認識精度を組み合わせることによって、より信頼性の高い定量的結果を得ることができます。
Mayu Ogawa(オリンパス)
本研究は福島県立医科大学の高木教授のご援助をいただきました。F-PDO(福島がん組織由来培養細胞)についてもっとお知りになりたい方は、https://www.fmu.ac.jp/home/trc/en/contract-research-provision/f-pdo/をご覧ください。
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