Promega社のNanoBiT(NanoLuc® Binary Technology)を用いた実験系は、細胞内で起こるタンパク質間相互作用(PPI)を検出することが可能な構造相補性レポーターであり、創薬スクリーニングやシグナル伝達系、ウイルスの細胞への感染機序の解明など、幅広い分野で用いられています。
セルフリーでPPIをモニタリングする方法は数多くありますが、in vivoでの状況を必ずしも反映しているとは言えません。細胞を用いた従来の検出法では細胞を溶解することなく、また特殊な装置を使わずに定量性のある検出をすることは容易ではありませんでした。そこでPromega社はNanoLuc®2分子テクノロジー(NanoBiT)を開発しました。Large BiT(LgBiT;18 kDa)及びSmall BiT(SmBiT;11アミノ酸ペプチド)のサブユニットをそれぞれ標的タンパク質との融合体として発現させ、PPIが起こるとサブユニットの相補性が促進され発光酵素として明るい光を生じます。(図1)
図1.NanoBiTの構造と再構成によるタンパク質間相互作用の測定原理
※Promega社HPから許可を得て転載(https://www.promega.co.jp/pdf/kawara_1604_p2.pdf)
本実験系では、プロメガ社のNanoBiT PPI control pair (N2016)に含まれるFKBP-SmBiT Control Vector、FRB-LgBiT Control Vectorについて、そのままの状態(局在化シグナル無)とFKBP-SmBiTのN末に核局在化シグナル(3×NLS)をつけた状態(核局在シグナル有)のベクターpairをそれぞれHeLa細胞に導入しました(図2)。
これら2つのタンパクFKBPとFRBはラパマイシン依存的に結合することが知られています。
図2.FKBP/FRB NanoBiTの作用機構
ベクターPairを導入したHeLa細胞にラパマイシン(終濃度30nM)による刺激を行い、細胞内に於けるFKBP/FRB NanoBiTの発光を発光イメージングシステムIXplore Live for Luminescence*1でイメージングしました。その際、ヘキストで核を蛍光染色し、同時に観察しました(図3)。
その結果、局在化シグナル無の状態では、FKBP/FRB NanoBiTの発光は細胞全体で観察できます。一方で核局在化シグナル有の状態だと、核でのみFKBP/FRB NanoBiTの発光が観察されていることがわかります。
図3.局在化シグナルの有無による細胞内でのNanoBit発現の局在の違い
さらに、ラパマイシン刺激前後の細胞における核局在FKBP/FRB NanoBiTの発光量の変化をグラフ化しました。
グラフからは、ラパマイシン刺激によって発光量が上昇している事が分かります。すなわち、ラパマイシン刺激によってはじめて細胞内でFKBP/FRB が会合してNanoBiTの発光が見られるようになることを示しており、その過程を同じ細胞で経時的に観察することができました(図4)。
図4.ラパマイシン刺激前後での核局在FKBP/FRBの発光量の変化
通常、NanoBiTやHiBiT*2を用いたPPI検出はスループット性に優れるルミノメーターで行われますが、ルミノメーターでは今回示せている核局在のような、細胞内で局在的に起こる反応を位置情報として可視化することはできません。
顕微鏡による発光イメージングとルミノメーターでの計測を組み合わせると、例えば、細胞内で局在的に起こる反応や薬剤刺激で細胞内の局在が変化するような反応をターゲットとする場合に、まずNanoBiTやHiBiTを用いた検出系が想定通りの挙動を示すかを発光イメージングで確認します。その後、ルミノメーターを用いたスループット測定に移行することで、細胞内挙動の可視化に蛍光タンパク質ベースのベクターを用意することなく、NanoBiT、HiBiTで構築したベクターをそのままターゲットの挙動可視化に用いることができます。
株式会社エビデント、先進光学・生物工学、林太朗
*1 IXplore Live をベースとした発光イメージングシステム:科学技術振興機構(JST)先端計測分析技術・機器開発プログラムで大阪大学産業科学研究所の永井健治教授らと株式会社東海ヒット及びオリンパス株式会社が共同で開発した成果を既存の製品と組合せパッケージ化したもの
*2 HiBiT:11アミノ酸のペプチドタグ(HiBiT)とそれに結合する約18kDaのNanoLucルシフェラーゼ断片(LgBiT)と基質を用いた、発光法によって目的タンパクを検出する技術
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