肝臓の組織構造の研究において、厚みのある組織標本の観察は容易ではなく、組織構造やその動態変化を切片で二次元的に観察することで研究が進められてきました。今回の実験では、マウス肝臓組織を透明化し、切片ではなく厚みのある組織のまま共焦点レーザー走査型顕微鏡FV3000を用いて、胆管樹状構造を三次元的に観察することが出来ました。また、シリコーンオイル浸対物レンズを用いることで、細かな胆管樹状構造をより高精細かつ三次元的に観察することができ、胆管の構造変化を正確に捉えることに成功しました。
成体マウスより摘出した肝臓組織 | 免疫染色法で胆管を蛍光染色 | SeeDBで肝臓組織を透明化 |
出典: K. Kamimoto, K. Kaneko, CY. Kok, H. Okada, A. Miyajima, and T. Itoh, "Heterogeneity and stochastic growth regulation of biliary epithelial cells dictate dynamic epithelial tissue remodeling," Elife, 2016 Jul. 19;5, pii: e15034, doi: 10.7554/eLife.15034.
今回の実験では、食餌投与による肝障害モデルにおいてリモデリングした胆管の3次元構造を解析しました。
成体マウス肝臓内における複雑な胆管樹状構造を三次元的に可視化するため、マウスより摘出した肝臓組織中の胆管を蛍光免疫染色法で染色、その後の標本を組織透明化試薬SeeDB1)で透明化し、FV3000を用いて肝内胆管樹状構造を三次元的に観察しました。また、Klf5-LKOマウスとコントロールマウスの胆管組織を透明化して胆管を染色、胆管構造の三次元的な比較を行いました。
1)参考文献:
Ke MT, S. Fujimoto, and T. Imai, "SeeDB: a simple and morphology-preserving optical clearing agent for neuronal circuit reconstruction," Nat Neurosci, 2013 Aug; 16 (8): 1154-61, doi: 10.1038/nn.3447, Epub 2013 Jun. 23, PMID: 23792946
肝障害モデルマウスにおける胆管樹状構造の枝の長さや太さを三次元的に撮影し、計測を実施。多数のサンプルを対象とする定量的な観察を効率良く行うために、FV3000と20倍ドライ対物レンズを用いて、SeeDBで透明化した厚み約200μmの肝臓組織中の胆管(緑、胆管上皮細胞マーカーCK19)の連続断層像を広視野で撮影(Z軸方向1μm間隔)。スケールバーは100μm。 |
コントロールマウス | Klf5-LKOマウス |
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国立遺伝学研究所 発生工学研究室 | 今回の実験では、食餌投与による肝障害モデルにおいてリモデリングした胆管の3次元構造を解析しました。高感度ディテクターを備えたFV3000を使用することで、低倍レンズでは広い視野を明るく高解像に撮影することができ、アベレージングや撮影枚数を抑えたスピーディーな観察により、定量に足る多くの視野の画像を得ることができました。 更にシリコーンオイル浸対物レンズを用いたところ、より深い場所を高精細に撮影するができ、胆管とは三次元的に離れた位置に胆管マーカーを発現する細胞塊が存在していることがわかりました。このことから、肝障害時におこる胆管リモデリングの際に、その構造を制御する機構が存在する可能性が示唆されました。 |
東京大学 定量生命科学研究所 幹細胞創薬社会連携部門 | 従来、肝臓の医学・生物学研究はおもに組織切片をもちいた二次元的な観察に基づいて進められてきました。こうした解析手法では、立体的な組織構造をとることで機能する臓器の『実像』や、種々の病態におけるその変化の様子を正確に捉え、理解することは必ずしも容易ではありません。 我々の研究グループは、独自の染色法と組織透明化法を組み合わせた新規可視化技術を開発することで、マウス肝臓内部の胆管の詳細な三次元構造の観察に初めて成功しました。これにより、肝臓の様々な病態に適応して誘導される胆管のダイナミックな構造変化(胆管リモデリング)の存在を明らかにし、そのメカニズムや生理機能の研究を進めてきました。 最近では、肝臓組織を効果的に透明化できるSeeDB試薬と共焦点顕微鏡の組み合わせにより、胆管の三次元構造をより効果的に可視化する実験系を構築し、今回のFV3000を使用した研究では胆管リモデリングに必要な分子メカニズムの一端を解明しました。共焦点顕微鏡を用いた三次元組織構造の解析は、胆管をはじめとする肝臓の様々な組織・構成細胞の動態を知るうえできわめて有効です。 発生・再生の過程や種々の病態の背景となる組織リモデリング・細胞間相互作用の理解を通じて、肝疾患に対する新たな診断・治療法の開発や再生医療分野への応用といった面での貢献にもつながるものと期待しています。 2)参考文献: K. Kamimoto, K. Kaneko, CY. Kok, H. Okada, A. Miyajima, and T. Itoh, "Heterogeneity and stochastic growth regulation of biliary epithelial cells dictate dynamic epithelial tissue remodeling," Elife, 2016 Jul. 19;5, pii: e15034, doi: 10.7554/eLife.15034. K. Kaneko, K. Kamimoto, A. Miyajima, and T. Itoh, "Adaptive remodeling of the biliary architecture underlies liver homeostasis," Hepatology, 2015 Jun.;61(6):2056-66, doi: 10.1002/hep.27685, Epub 2015 Apr. 22. |
オリンパス独自に開発した分光システム「TruSpectral」を搭載。反射型回折格子に比べ40%以上効率の良い透過型回折格子(VPH: Volume Phase Holographic diffraction grating)により、微弱な蛍光でも美しい画像が取得可能です。
あらゆるデジタルイメージングのニーズに最高の性能でお応えします。特にシリコーンオイル浸対物レンズシリーズは、細胞の深部まで、明るく解像力高く観察することが可能です。豊富なラインアップから観察用途に応じて選択することができます。
アプリケーションノート制作にご協力賜りました先生:
国立遺伝学研究所 発生工学研究室 岡田 甫先生、
東京大学 定量生命研究所 幹細胞創薬社会連携部門 伊藤 暢先生
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