培養細胞を用いる研究開発では、しばしば実験の再現性が確保できないという問題が生じます。この再現性の問題を克服するためには「より強固な実験デザイン」や「より良い統計」が対策案として挙げられています※1。
しかしながら、研究者にとってはこの対策を講じるための定量データの取得自体が負担にもなります。
今回、オリンパスのインキュベーションモニタリングシステムCM20を用いた品質評価手法により、研究者に負担をかけることなく培養中の定量データを取得し、実験の再現性を向上させることができました。
一般的に実験準備段階である維持培養中の細胞の良否判定や操作タイミングは作業者の主観的な判断に委ねられているため、作業者ごとのバラつきが少なからず発生してしまいます。さらに、細胞の定量データを取得する際にもサンプルの一部を回収する必要があり、非破壊で大量のデータを測定できるような実用的なツールもこれまでありませんでした。
CM20は細胞サンプルを容器から剥がすことなく、一定間隔で自動観察することが可能です。そのため作業者に負担をかけることなく定量データを取得することができます。取得した画像から細胞数を自動計測して、細胞増殖能力の指標である倍加時間を算出することも可能です。
図1:CM20では6ウェルプレートに播種した細胞の継代培養中の定量データを自動計測可能
図2:CM20にてMSCの画像を取得し細胞カウントしている様子
継代培養中の細胞の定量データを品質評価として活用することに成功した事例を紹介します。ヒト臍帯血由来血管内皮細胞(HUVEC)の継代培養中に取得した大量の画像から、細胞の形態および倍加時間を解析しました。この結果、HUVECは継代培養中の倍加時間と血管形成能に高い相関があることがわかりました。この場合、増殖能に変化が起こるPassage8(P8)までを後工程の実験に使うことにより、再現性の高い実験がデザインできることがわかります。
(本結果は、CM20のプロトタイプを使用した結果です。実験内容詳細はScientific Reportsを参照※2ください。)
図3
(a)継代数ごとの細胞形態:継代ごとの画像データの記録
(b)継代数と増殖速度(Doubling time)の関係:P8を境に増殖速度が変化していることを示す
(c)HUVECの血管形成能と継代数:P7では成功している血管形成がP12ではうまく血管形成されてないことを示す
生命科学の分野では過去に行った実験が再現されないことが問題視されています。これまで研究室内の熟練者が感覚的に感じていた継代培養中の僅かな変化を、インキュベーションモニタリングシステムCM20で大量の画像を取得しデータを分析することで、細胞の品質評価へ活用できる可能性を確かめることができました。今後、再生医療などの生命科学の分野において培養中のデータを取得し品質評価しながら実験を進めることで、実験の再現性向上にも役立てられることを期待しています。 | |
福田淳二先生
横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門 |
※1) Monya Baker, "1,500 scientists lift the lid on reproducibility", nature 533, 452–454 (26 May 2016)
※2) Tatsuya Osaki, Tatsuto Kageyama, Yuka Shimazu, Dina Mysnikova, Shintaro Takahashi, Shinichi Takimoto & Junji Fukuda, "Flatbed epi relief-contrast cellular monitoring system for stable cell culture", nature Scientific Reports ISSN 2045-2322 (online) (15 May, 2017)
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