前回は、説得力のある蛍光イメージング像を得るためのポイントをご紹介しました。 S/Nを上げるためには、対物レンズだけでなくオイルや光源など、押さえるべきポイントがいくつかありました。今回は、それらのひとつである蛍光ミラーユニット(以下ミラーユニット)の選び方についてお話します。
ミラーユニットと聞いて、皆さんはすぐにイメージできるでしょうか。顕微鏡を前にしてみても、一体どれなのかと迷ってしまうかもしれません。正立型の顕微鏡を例に見てみると、光源(ランプハウス)から始まる光の通り道上で、対物レンズと接眼レンズの間の位置にあります(図1)。蛍光イメージングでは、目的の波長の励起光だけをサンプルに照射し、サンプルから発せられた蛍光シグナルだけを観察したいものです。ミラーユニットは、「特定の波長域の光だけを選択する」という役割を担っているのです。
ミラーユニットは、以下の3枚のフィルタで構成されているキューブ型のものです。
励起フィルタ
光源からのブロードバンドな波長帯の照明光の中から、蛍光色素に最適な励起波長帯の光(励起光)だけを透過します。
ダイクロイックミラー
所定の波長を境界にして、短波長側を反射し、長波長側を透過するミラーで、励起光を対物レンズ側に送ります。また、試料からの蛍光は透過して、接眼レンズ側に送ります。
吸収フィルタ
励起光を完全に遮断し、試料からの蛍光だけを透過します。
図2の正立型落射蛍光顕微鏡を例に光学系の経路をたどりながら、ミラーユニットの構成を見てみましょう。
水銀ランプやキセノンランプといった光源から出た光には、紫外から可視光、そして赤外に近い領域まで、非常に幅の広い波長の光が含まれています。これを励起フィルタに通すことで、様々な光から、蛍光色素を励起するのに最適な波長の光(励起光)を選択することができます。
励起フィルタを通過した光は、次に「ダイクロイックミラー」で反射され、進行方向が90度変わります。そしてミラーユニットを飛び出して、対物レンズを通りサンプルに照射されます。蛍光色素ごとの特定波長の励起光をサンプルに照射すると、サンプルの蛍光色素が励起し蛍光が発せられます。蛍光は対物レンズを通って再びミラーユニットへと進入し、ダイクロイックミラーへ到達します。ダイクロイックミラーは、励起光などの短い波長の光は反射しますが、長い波長の光は透過させるという性質をもっています。そのため、長い波長である、サンプルから発せられた蛍光は、今度はダイクロイックミラーを通過し、3枚目の「吸収フィルタ」に到達します。ここで、サンプルから発せられた光のうち蛍光色素が発する特定の蛍光波長だけが選択され、私たちにシグナルとして届くのです。
図3 水銀ランプの光源スペクトル
よりクリアな像を得るために ~S/Nを上げるポイント~ でご紹介したように、説得力のある蛍光イメージング画像を得るためには、観察したい目的のシグナル(S)の強度を上げ、バックグラウンドのノイズ(N)の発光を抑えること、つまりS/Nを上げる必要があります。今回はミラーユニットにおける、S/Nを上げるポイントを詳しく見てみましょう。
1.シグナル(S)を上げる
シグナルを上げるためには、サンプルから発せられた蛍光がダイクロイックミラーや吸収フィルタを通るときの透過率が高いことが必要です。それぞれの部品について改良が重ねられ、ある特定の波長域の透過率(帯域透過率)が100%に近づいているものが数多くあります。なるべく高い帯域透過率のフィルタを選ぶことが、シグナルを上げることにつながるのです。
2.ノイズ(N)を下げる
励起光に比べて、サンプルから発せられる蛍光は10000分の1くらいの強度しかありません。つまり、蛍光シグナルを上げるとともに励起光などのノイズを極力抑えることが、クリアな画像を得るための大きなポイントです。
例えば、励起フィルタと吸収フィルタの透過波長域に重なりがあると、励起フィルタを通った光が吸収フィルタを通ってしまうことになります。そうすると、わずかな量の励起光でも、非常に強いノイズとなってしまいます。波長域が重ならないようなフィルタの組み合わせを選択することが大事です。
また、ダイクロイックミラーで反射することができずに通してしまったわずかな励起光(迷光)によってもノイズが発生します。迷光はミラーユニットの中を乱反射し、それが観察するときにノイズとなってしまうのです。これを防ぐために、ミラーユニットの内側に「ライトアブソーバー」という光を吸収する素材をつけたものがあります。そうした工夫が施されたミラーユニットを選択することで、迷光の99%をカットすることが可能になります。
観察したい蛍光色素が1種類の場合には、励起フィルタと吸収フィルタが蛍光色素に適したものを選びます。詳しくはフィルタを販売している各メーカー
で情報が公開されているので、推薦されている適切なミラーユニットを選択するとよいでしょう。しかし、2種類以上の蛍光を重ねて観察したい場合には注意が
必要です。それでは、実際にミラーユニットを選んでみましょう。ここではAlexa Fluor 488と Alexa Fluor
546の2種類の蛍光色素を利用する場合を説明します。
図 4の2つの蛍光色素のうち、Alexa Fluor 488の蛍光観察用には蛍光フィルタは透過域が狭くなっている「色素分離用」のものを選ぶ必要があります。なぜなら、Alexa Fluor用の励起光が Alexa Fluor 488だけでなくAlexa Fluor 546も励起してしまう可能性があり、Alexa Fluor 488用の吸収フィルタで長波長領域まで透過域をとってしまうと、Alexa Fluor 546の蛍光も一緒に観察してしまうことになるからです(図5、6)。 | 図4 Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 546のスペクトル |
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また、それぞれの蛍光波長に合ったミラーユニットを複数用いて観察すると、目的のシグナルだけを観察することができ、後から画像を処理するのも簡単です。Alexa Fluor 488用のミラーユニット(U-FBWA)で写真を撮った後でAlexa Fluor 546用のミラーユニット(U-FGW)に入れ替えて撮影し、それぞれの写真をPC上で重ね合わせます。
以上が、説得力のある蛍光イメージング像を得るためのミラーユニットの選び方です。
ただし、ミラーユニットを扱う際には、フィルタに触れないよう気をつけなければなりません。フィルタ上についた人のタンパク質などが使用中の熱により加熱されると、その影響でフィルタも変質するなど、正しいフィルタリングができなくなってしまう可能性があるからです。
さらに、好みのフィルタを個別に購入し、自分でミラーユニットを組み立てることも可能です。使用する蛍光色素に合わせて、よりよい組み合わせのミラーユニットを作成することができるのです。
空ミラーユニット | 図7 フィルタ組み込み方向 |
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