無色透明のサンプルや生きている細胞の観察法として、これまで位相差観察や微分干渉観察を取り上げてきました。このほかにも、特に胚の膜の状態を観察するICSI等に適した方法に、レリーフコントラスト(Relief Contrast:RC)と呼ぶ観察法があります。
今回はこのレリーフコントラスト観察について、その仕組みと調整方法をご紹介します。
レリーフコントラスト観察では、ロバートホフマンが考案した原理により、微分干渉のようにサンプルを立体的に観ることができます。
下の図1をご覧ください。こちらはカエルの血球標本を位相差、微分干渉、レリーフコントラストの3つの観察方法で撮り比べたものです。
A 位相差観察ではサンプルが平面的に見えるのに対し、B 微分干渉観察とC
レリーフコントラスト観察は、サンプル表面に明暗のコントラストが付き、立体的に見えます。
ただし、この微分干渉観察とレリーフコントラスト観察は、詳細はあとで述べますが、結像原理は全く異なります。また微分干渉観察ではプラスチックの容器が使用できないのに対し、レリーフコントラスト観察ではプラスチック容器を使用できるという特長があります。
このようなことからレリーフコントラスト観察は、プラスチック容器の中の細胞を微分干渉のように立体的な像で観察する際に用いられます。
例えば、卵細胞や精子を観察する場合、ガラス容器よりもプラスチック容器を使う方が作業をする上で都合のよい場合が多くあります。しかし、プラスチック容器では微分干渉観察は使用できません。また、位相差観察は、卵細胞のような厚みのある細胞は苦手としています。このようなときにレリーフコントラスト観察が用いられます。
下の表に、微分干渉観察とレリーフコントラスト観察の特徴をまとめてみましたので、ご参考ください。
レリーフコントラスト観察 | 微分干渉観察 | |
---|---|---|
コントラストの付き方 |
サンプルの厚さの勾配にそって陰影のコ
ントラストが付く |
サンプルの厚さの勾配にコントラストが
付く |
像の特性 |
立体感のある明暗、又は色のコントラストがつく
影の付き方に方向性がある | |
コントラストの調整 | 立体感のコントラストを微調整できる | |
分解能 | 微分干渉には劣る |
高い
ビデオ画像にすることで高分解能が得ら れる |
適したサンプル |
総合倍率400×位まで観察できるサンプル
卵細胞など |
微細な構造から大きな構造まで観察できる
サンプルの厚さは数百μmまで可能 |
プラスチック容器の使用 | 可能 | 不可能 |
表 レリーフコントラスト観察と微分干渉観察の比較
レリーフコントラスト観察を行うには、専用コンデンサと専用対物レンズが必要です。
専用コンデンサには、一部を偏光板で覆った“矩形スリットモジュレータ”が組み込まれており、一方の専用対物レンズには、“対物モジュレータ”と呼ぶ透過率が段階的に異なる光変調板が内蔵されています。(図2参照)
図2 レリーフコントラスト観察の模式図(倒立顕微鏡)、コンデンサ、対物レンズ、モジュレータの位置関係
矩形スリットモジュレータは、上の図2のように専用コンデンサの前側焦点(コンデンサ瞳面)に位置し、図3で示すように、矩形開口が2つ設けられています。
一方、対物モジュレータは、上の図2のように対物レンズの後側焦点(対物瞳面)に位置し、コンデンサのターレットを明視野観察(=BF)のポジションにし、接眼レンズを抜いて鏡筒スリーブ内を覗くと、図4のように見えます。
つまり、光が対物瞳面のどの位置を通過するかによって、明るさに変化がつけられる(強度変調と呼ぶ)仕組みです。
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図5 レリーフコントラスト観察の光路図/倒立顕微鏡(サンプルを置かない場合)
ポラライザ(偏光板)を通った光は、矩形スリットモジュレータの外寄りの矩形開口を通過します。この矩形開口は外寄りに偏って位置しているため、開口を通った光は、斜めの方向からサンプル面に向かって入射します(図5 専用コンデンサと専用対物レンズの間)。その後光は、対物モジュレータのグレー部を通り中間像位置に向かいます(光の明るさはA=B=C)。
次に、断面が台形の透明なサンプルを模式的に置いた場合を見てみましょう。
下の図6は、レリーフコントラスト観察時(サンプルを置き、正しく調整された状態)の、顕微鏡の光路を模式的に示したものです。
まず、ポラライザ(偏光板)を通った光は、矩形スリットモジュレータの外寄りの矩形開口を通過し、図5と同様で斜めの方向からサンプル面に向かって入射します。
図6-a レリーフコントラスト観察時の光路図(サンプルを置いた場合/倒立顕微鏡)
その後、光がサンプルを透過する様子を拡大してみると、右の図6-bのようになります。
一方、サンプルの斜面部分を透過する光線AとCは、サンプル内で偏向します。図6-bのように光線Aは光軸の外側に、光線Cは光軸側に向かいます。 その後、サンプルの斜面で偏向した光線Aは対物モジュレータの暗部側を、光線Cは透過領域側を通過します(図6-a)。これにより対物モジュレータ通過後の光の明るさは、光線C>光線Aとなります。
このため、光線Aで形成される像は光線Cで形成される像よりも暗くなり、サンプルの像は全体に明暗のグラデーションがかかった立体感のある像になるわけです。
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レリーフコントラスト装置には、倒立顕微鏡に以下のものが設けられています。
1.中作動距離コンデンサ
このコンデンサは、レリーフコントラスト観察のための矩形スリットモジュレータを内蔵しているほか、位相差リングスリットや微分干渉プリズム素子を入れることで位相差観察や微分干渉観察にも対応できます。(図7)
図7 レリーフコントラスト観察用のコンデンサ
2.レリーフコントラスト用対物レンズ
専用の対物モジュレータが内蔵されたもので、当社ではアクロマートとプランセミアポクロマートの2シリーズに、それぞれ10×、20×、40×の3種類の倍率をラインアップしています。
レリーフコントラスト用の対物レンズ
レリーフコントラスト観察を行う際は、明視野観察での光軸調整のほかに、下記の調整が加わります。
・矩形スリットモジュレータの方位の調整
・回転ポラライザによるコントラスト調整(サンプル観察時)
1.中作動距離コンデンサ内の矩形スリットモジュレータについて
矩形スリットモジュレータは、コンデンサのターレット内に、対物レンズの倍率(10×、20×、40×)それぞれに対応した下記3の種類がセットされています。「RC1」は10×対物レンズ用、「RC2」は20×対物用、「RC3」は40×対物用で、RC1から順に、ターレット番号(1)、(2)、(3)がつけられています。観察を行う際は、このターレットを回して、使用する対物レンズの倍率に合うモジュレータに切り替えます。また、ポラライザはレリーフコントラスト専用のものを取付けネジでセットします。
中作動距離コンデンサの各部名称
2.光軸調整
ターレットを「BF」(明視野)ポジションにして、基本的な光軸調整を行います。
3.矩形スリットモジュレータ、対物モジュレータの確認
レリーフコントラスト用の対物レンズ10×を光路に入れ、コンデンサのターレットは「BF」のまま一般的な染色標本等でピントを合わせます。
次に、コンデンサターレットを10×用の「RC1」に切り替えると、右の図8のように矩形スリットモジュレータと対物モジュレータの両方が見えます(但し、調整前のずれた状態)。 ここで、右の図9に示すような心だし望遠鏡(CT)付き双眼鏡筒がついている場合は、ターレットを「CT」に合わせると、瞳が拡大し見やすくなります。それ以外の鏡筒を使用している場合は、接眼スリーブに心だし望遠鏡(U-CT30)を差し込んでも瞳を拡大して見ることができます。 |
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4.矩形スリットモジュレータの方位の調整
下の図10は、矩形スリットモジュレータと対物モジュレータの見え方を模式的にa未調整、b調整途中、c調整完了の3状態で示したものです。
図10 矩形スリットモジュレータの方位の調整
a→bへの調整は、円周方向の調整です。
次にXY方向の調整です。コンデンサ心だしつまみ挿入穴(図11の(3)/コンデンサの左右2箇所)に心だしつまみ(2ヶ)を差込み、つまみを同時に回してb→cの状態に調整します。
| 図11 コンデンサの操作部 |
5.他の倍率(20×、40×の対物)での調整
他の倍率のモジュレータも同様に調整します。
コンデンサのターレットを回して「RC2」、「RC3」のポジションでも、それぞれ上の4項と同じように調整します。
以上のように、使用するレリーフコントラスト用対物レンズのそれぞれで、矩形スリットモジュレータの方位の調整が完了した後は、接眼レンズを元に戻せば(CTターレット付き双眼鏡筒では「O」ポジションに切換え)観察ができます。
観察するサンプルをステージに載せて観察します。このとき、対物レンズの倍率とコンデンサのターレットのポジションはいつも正しく合わせてください。
以上で、レリーフコントラスト観察における基礎的な調整方法は終了です。意識的に調整する習慣をつけて、体で方法を覚えていきましょう!
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